権太楼の「蜘蛛駕籠」 ― 2013/09/03 06:16
黒の羅の着物に、白い羽織。 昔々亭桃太郎は、お酒の飲めない人で、昼間 何をしているかというと、喫茶店のハシゴをして、表を通る人をただ見ている。 面白いのだという、面白い人がいる、と。 人間観察、それをやってみた。 雷 門の所に人力車夫が屯している。 浅草演芸ホールへ行ったら、前でお客さん の写真を撮って、案内をしていた。 歌丸、円楽、山田隆夫さんが、出ている。 そんなの、出ない。 ビート・たけしは、若い時出ていた。 今日、出ている のは、ロクでもない人達。
人力車の前は、駕籠だった、と「蜘蛛駕籠」に入る。 駕籠屋が「へい、駕 籠」「へい、駕籠」と呼びかけて、何とか客を引っ張り込もうとしている。 相 棒というと刑事のようだが、兄貴分が雪隠に行っている間に、新米が前の葭簀 張りの茶店のオヤジを駕籠に乗せてしまう。 ナリを見ればわかるだろう、下 駄を履き、紺の前掛をして、箒とチリトリを持っているのに…。 振り分けの 重たそうな荷物を、下げている、あの人はどうだろう。 馬鹿、あれはオワイ 屋だ。 「お駕籠は二丁、供揃いが十人ばかり…」。 大勢だ、すぐ仲間を呼ん で来い。 「通らなかったか、そういう者が通ったら、教えてもらいたい」。
酔っ払いだ、やり過せ。 「へい、駕籠」「へい、駕籠」。 俺を呼んだか、 六郷の渡しの所で、「アラ、熊さん」と声をかけられたのが、辰公のかみさんの おテッちゃんだ、知ってるだろ、神田竪大工町の左官の娘で、三河屋の旦那が 仲人になって、大黒屋で祝言を挙げた、ほら面差しの浅黒い、アゴのところに 小豆粒ほどのホクロのある、おテッちゃんだよ。 辰公のところで、さんざん ゴチになって、すっかりいい気持になっちゃって、お稲荷さんまで竹の経木に 包んでくれた。 ほら、開けてみろ、一、二、三、四、五、六、ハックショー ーン、一つ食えよ。 いいです、きたない、ベチョベチョだ。 包み直せ。
六郷の渡しの所で、「アラ、熊さん」と声をかけられたのが、辰公のかみさん のおテッちゃんだ、知ってるだろ、………。 このリフレインが、可笑しい。 お稲荷さんは、ついに、さっき見ましたになり、もうベタベタだ。 駕籠屋も 憶えてしまうが、聴いているわれわれも、憶えてしまう。 駕籠に乗れ、だと。 物を頼むのに、捩り鉢巻は失礼だろう。 どうも、すみません。 地べたに手 をついて、謝れ。 勘弁してやる。
踊りながらやって来るのがいる。 手拭を吉原被りにして、駕籠の周りを回 りましょ、と踊る。 乗りたいけれど、銭がない、品川まで二分にまけてくれ。 けっこうです、十分で。 かつぐと、やけに重い。 中に二人、その内に二人 で相撲を取ったからたまらない、駕籠の底が抜けた。 急に、楽になったな。 お父っつあん、面白いよ、変な駕籠が通るよ、足が四本じゃなくて、八本出て いる。 あれが本当の蜘蛛駕籠だ。
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