立川志らくの「百年目」中 ― 2026/04/15 07:05
番頭は、駄菓子屋の二階に上ると、総桐の箪笥に西陣で誂えた着物などがぎっしり、それに着替えて出かける。 旦那、こっち、こっち! 舟が出る! 忘れてたわけじゃない。 お花見に、向島の土手へ。 障子、開けちゃあ、いけないよ。 花が見えないじゃないですか。 駄目だよ、誰かに見られたら、どうするんだよ。 暑いのなんの、芸者たちが汗になる。 障子、開けなさい。
土手は見事な桜だ、みんな上がって、花を見なさい。 旦那は行かないの、一八さん。 顔を見られなければ、いいんでしょう。 扇子を顔にあてて、紐で結んで、格子越しに見ればいい。 これで、お花見ができる。 さすが、一八さん、嬉しい。 自慢の襦袢で、鬼ごっこをする。 捕まえたら、どんぶり鉢二杯飲ますぞ。
店の旦那が、医者の玄庵先生と花見に来ていた。 一番いい花見時だね、来年はみんなを連れて来ましょう。 向うから、大勢の芸者、幇間を引き連れて、派手な花見が来るよ。 当人たちは、どんなに楽しいか、どこかの大家の旦那でしょう。 三味線に乗って踊っているのは、お宅の番頭の佐兵衛さんに似てますよ。 番頭にあんなことができるわけがない、今朝も小言で「ゲイシャっていうのは、どんなシャだ、タイコモチっていうのは、焼いて食うのか、煮て食うのか?」って、言っていた。
捕まえたぞ! 花奴か、一八か! 酒、二杯飲ますぞ。 顔の扇子をはずす。 アッ、と飛上がって、お久し振りでございます、ご無沙汰を致しておりまして。 と、ひざまずく。 せっかくの着物が大変だ、皆さん…、だいぶ酔っぱらっているようだから、怪我のないように遊んでやって下さい。 どうしたんですか旦那、座り込んじゃって。 今の品のいいおじいさんは、どなたで? お店のご主人だ。 旦那の旦那ですか。 一八、財布を預ける。 先に帰る。
駄菓子屋に戻って着替えると、一目散で帰って来た。 今、帰りました。 お帰んなさい。 旦那は? 今朝早く玄庵先生と向島へ。 風邪を引いたらしい、先に休むから、旦那様がお帰りになったら、そう言っておくれ。
今、帰った。 番頭さんは、どうした。 さっきお帰りになって、風邪を引いたらしいって、二階で寝ています。
日が暮れて、ご飯になったが、番頭は誰か食べてくれと、降りてこない。 静まり返って、明日の朝まで、首がつながった。 逃げちゃおうか、着物を沢山着込んで、達磨みたいになって。 初犯だから、許してもらえるだろうか。 着物を着たり、脱いだりしている。 このまま逃げ出したら、人の道に外れる、と思う。 夢の中で、貞吉が、両方の鼻の穴に、火箸を突っ込んで、チリン、チリンとやっている。 まんじりともしない。
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