魯山人、吉田茂首相を唸らせる2026/04/23 07:10

 魯山人の家のことをしている使用人の春子(中村優子)が北鎌倉の畑で、「♪桑港(サンフランシスコ)のチャイナタウン 夜霧に濡れて 夢紅く 誰を待つ 柳の小窓 泣いている 泣いている おぼろな瞳 花やさし 霧の街 チャイナタウンの恋の夜」と歌いながら、茄子や獅子唐を収穫して、大磯の吉田邸へ。

 吉田邸では、吉田茂首相(柄本明)が、「ようこそ、大磯まで」と北大路魯山人を迎え、手を出して握手する。 そして「傍若無人、人を人と思わぬ北大路何とかという人の料理を食べてみたくてね」と。 魯山人も、「私のほうこそ、マッカーサーとやりおうて、ふだんは人を食って生きている、吉田ナニガシという方に料理をつくること、ほんま嬉しいですね。」 「私に似て、口が悪い。」 「貴方こそ、私の真似をしていらっしゃる。」

 台所で、魯山人は弟子の板前に、「吉田さんはイタリアやイギリスが長いから、白葡萄酒がお好きだろう、前菜は鶏肝と味噌を和えて」と。 そこへ、京丹波和知川の鮎が届く。 田ノ上ヨネ子は、もうフラフラ、台所に倒れ込んで、寝てしまう。

 魯山人は、吉田茂に、「おこんだて」と書いた紙を渡す。 「前菜 鮎しおやき 鮎いろいろ お茶づけ 北大路魯山人 吉田茂様 御侍史」 吉田は「温かい字だ、良寛さんがお好きか。字には全てが表れる、よい字を書こうとすると、さもしい根性まで表れる。」 魯山人は「そうですな。おのれ以上のものは出来ません、料理と同じです。」

 吉田は、白葡萄酒のマルゴー1937を出させる。 茄子や獅子唐、菊の葉で飾られた前菜、「このパテは何だ?」 「味噌と鶏肝で。」 「日本の食べ物は、ヨーロッパ以上だな。」

 台所では、竹串を打った鮎二匹が焼けた。 まだ寝ているヨネ子を跨いで、レモンを添えた鮎を吉田に出す。 魯山人も、吉田の前でビール瓶の栓を抜いて、飲む。 「お手に取って、腹からガブリと」 「ウーーン! 美味い、何だこれ?」 「鮎です。」 「そのビール、もらえるか?」 「わかっていらっしゃる。」 「美味い!」 次は、蓼(たで)酢につけて、齧る。 「ウーーン!」 魯山人も、鮎を齧る。 吉田は「もう、一匹焼いてくれるか。」 「ありません、これっきりです、すみません。」 「どうぞ」とビールを注ぎ、二人でビールを飲む。

 台所で、鮎を焼きますかという弟子に、「焼かない。二匹目は、一匹目より美味しゅうはならん。」と言い、「もう一匹だけ焼いとってや」。

 吉田は、「なぜ鮎がこんなに美味いのか」と、聞く。 「京都丹波の和知川の鮎の美味さは、腸(はらわた)にございまして、釣ったらすぐ、その腸を揺れないようにして、生きたまま大磯まで運びました。蓼は近所の川で取りました。今日の料理は、私が作ったというものではなくて、自然が育んだものを、美味しく頂戴しただけです。エヘヘヘ!」 「参った。料理は、いつ覚えた?」 「七つの時から、京都でおさんどんをして、吉田さんのような王子でなく。」 「王子と乞食か」 「王子と捨て子で」 「魯山人、口は悪いが、料理は本物だ。」 「吉田茂はんの、舌も口も大したもんでございます。」 「今度、金を持っている奴らを行かせることにするから、頼む。」

 台所でようやくヨネ子が目を覚ます。 腹が鳴る。 弟子が「先生からです」と、一匹だけ焼いた鮎を差し出し、ヨネ子はそれにかぶりつく。