七つの時から、おさんどんをして料理を覚える2026/04/24 07:03

 後日、田ノ上ヨネ子が口述筆記に、北鎌倉を訪れる。 春子と使用人の松山(満島真之介)が迎え、どうかと聞く春子に腕と肩が筋肉痛だと言う。 いつもの部屋で待たされていると、魯山人が聞いているラジオの音がする。 ちょっと覗くと、魯山人は泣いていた。 「あんた、部屋を覗いたな、顔に出ている。」 「すみませんでした。」 「正直でよろしい、好奇心があるのもよろしい。」 「あんた、何が知りたい?」 「世間で、傍若無人、傲岸不遜と虫けらのように言われる北大路魯山人が、どのように出来たか、知りたいのです。」 「あんた、はっきりしていていいな。」

 「生れは、京都上賀茂や、調べて知っているだろう。私は、捨て子や。父も母も知らん。房次郎という名前だけある。三つの時、真っ赤な躑躅(つつじ)を見て、美しいものを探すために生れてきたんだと思った。それから里親を何人か転々として、ようわからん。叱って棒で打つ、錯乱した中年女の醜い顔が目に浮かぶ。」

 番組は、モノクロの小さな画面になる。 「そんから、木版屋の福田家にもらわれ、やっと福田という苗字がついて、福田房次郎になった。福田の家で、役に立つ人間になろうと思って、おさんどん、台所仕事を自分から始めた。」 房次郎が、かまどで薪をくべて米を炊き、福田の父、母と食事をしている。 父親が飯を食い、「美味い、美味すぎる。一等米を買ったのか?」と怒る。 母親が「三等米の金しか渡してません。」 問い詰める父に、房次郎は「何種類かの三等米を少しつくね混ぜて、水切り時間をきっちり計って、強う炊いたら、美味しくなります。毎日ここで勉強させていただきまして。」 画面には、いつの間にか、色がついていた。 「何か、褒美をやろう。」 「釜についたオコゲをください。」 「オコゲか、なんぼでも食え。」

 「食べ物に執着して、道端の野草や、田圃のタニシでも、美味しいものをつくった。福田の親の喜ぶ顔が見たくて。」

 ヨネ子が、「実のご両親のことは」と聞くと、魯山人は席を外してしまった。 三十分、永遠かと思われる時間が流れて、いい匂いがしてきた。 ヨネ子の腹が鳴る、立って行くと、魯山人がかまどに薪をくべてご飯を炊いていた。 「覗いてないで、こっちきいや。お米も水も毎日違う、真心込めて炊くんや。オコゲが出来るほど、強く炊いたら美味しくなる。あんた、オコゲが好きか。」 「好きです。」 魯山人は、皮のある何か(?)を削って、オコゲの茶づけを作ってくれた。 胡瓜とシラスの和え物を添えて。 ヨネ子は、魯山人の目の前で、それを食べる、ニコニコしながら。 「ご飯は、最高の料理なんや、私がつくり、あんたが食べるんや。あんた、食いしん坊やな、これ持って帰れ」と、小さな風呂敷包みを渡した。

 家に戻ってヨネ子がそれを開けると、楕円の赤い塗り物の弁当箱に、握り飯、タニシの佃煮、沢庵が入っていた。