瀧川鯉昇の「うなぎ屋」2026/04/13 07:00

 しばらく無言で座っている。 陽気の変り目に付いていけなくなった、と感じてから五十年。 三十年ぐらい前に初めて健診を受けた。 最近の健診、頭のてっぺんから足の先まで、午前中に数時間で終わる。 コンピューターが現れて変わったんだそうで、聞くと、もとになる考え方が違うという。 二進法。 もともとニシンは、北海道。 沖縄が、サンシン。 インターンは、予診。 藪医者は、誤診。 皮膚科は、発疹。 心臓には、救心。 健診は、9時から始まって、昼前に終わり、昼飯が出る。 お銚子はナシ。 検査結果もあらかた出ている。 楽屋の裏付けのない会話によると、頭の中に何もないと、病院の裏庭が映るんだそうで。

 いろいろと細かい規則が変る。 「違法ではないが、不適切」というのがある。 例えば、お賽銭を上げないで、お願いする。 落語を聞いても笑わない。 寄席の出番は10分ぐらいなのに、その疲れを癒すのに、赤ちょうちんで7,8時間かかる。 「違法ではないが、不適切」。

 ごめん、こっち向いてんのか、裏側だと思ってたよ。 竹、暇か、浅草へ出掛けよう。 寿司屋通り、両側寿司屋ばかりだ。 寿司は、どうかね。 俺の大好物だ。 そうか、好きなことがわかるだけでいい。 映画館が、ずらっと並んでる。 六区の映画街だ。 映画は、向こうのものと、こっちのもの、どっちがいい?  こっちのものがいい。 同じ考えだな、向こうのものは、絵をみていると字が読めない。 今日は、観ない。 トンカツ屋、洋食屋、おでん屋もあるな。 観音様の前に出た。 お賽銭を上げろ。 その間に、「家内安全、健康第一!」 人形焼き屋だ、雷門に出た。 電気ブランや、ビールもあるな。 吾妻橋のたもとで付き合え、便所だ。

 腹ごなしに、歩こう。 食うとか、飲むとか、しないのか? 飲みたいなら、橋の下へ行って飲んで来い。 「隅田川」という名の酒だと思って。 五杯飲んで、ドボン! と落ちた。 おわい舟が、助けてくれた。 臭かった。

 飲んでもらわないと、きまりが悪い。 隣町のうなぎ屋、胡瓜の漬物が旨い。 二本目も、五本目まで出る。 うなぎは、どうだ。 うなぎは元気だが、長く修業をしたさばく職人が外出中でして。 オヤジは、どうだ? 私でも何とかなる、うなぎが二匹いる。 赤くて☓、赤十字のマーク。 患ってるんじゃないか。 夏バテで、十日前に脳溢血で。 向うに、じっとしてる奴は? 貼り紙に、「観賞用」としてある。 捕まらないんで。 俺がやるよ、急所を知ってる。 ビリビリッと来たぞ、電気うなぎか、これ。 豊洲じゃなくて、秋葉原から来てるんで。

 ザルでしゃくってるぞ、道具に頼ればいいんだ、救いの神だ。 (扇子でしゃくう)、何、踊ってんだ。 羽織を脱いで、畳んで、懐に入れ、うなぎに糠をどっさりかけて、うなぎをつかもうとするんだが、指先から抜け出す指を、次から次へと追いかけて、座布団を降り、高座を降りて、とうとう舞台から、姿を消した。

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