ハーン「杵築(きづき)」出雲大社へ ― 2025/10/30 07:03
小泉八雲著、平井呈一訳『日本瞥見記』(上)第八章は「杵築(きづき)」である。 福沢に親しんだものは、大分県の杵築(きつき)を思いうかべるが、杵築(きづき)は島根県出雲市大社町の古地名で、出雲大社の所在地である。 「杵築(きづき)―日本最古の神社―」は、ラフカディオ・ハーンの出雲大社訪問記である。 ハーンは書く、「出雲は、わけても神々の国であり、いまでもイザナギ、イザナミの子孫が、深くその宗祖を尊崇している、この民族の揺籃の地であるわけだが、同時に、その出雲のなかでも、杵築はとくに神の都であって、そこにある古い神社こそは、この国の古代信仰である、神道という偉大な宗教が発祥した、本家本元なのである。」
「杵築を訪れることは、わたくしが神道に関する杵築の伝説を聞いて以来、わたくしの最も熱烈な願いであった。そして、わたくしのこの願いは、これまで杵築を訪れた西欧人のはなはだ稀であること、西欧人にして、大社の昇殿をゆるされたものはいまだかつてないということを知るに及んで、いやが上にも強くなった。じっさい、西欧人のなかには、大社の境内にさえも、近寄ることを許されなかったものがあったくらいなのである。そういう連中に比べれば、わたくしの方がいくぶんか幸運に恵まれていると信じている。なぜというにわたくしは、わたくしの親友でかつ杵築の神社の宮司とは、個人的にごく昵懇な、西田千太郎から紹介状をもらってあるのだから。だから、かりに日本人自身のなかでも、ごく少数の者だけに限られている、昇殿という特権は許されないまでも、すくなくとも、そこの宮司――日の神の末裔である、千家尊紀氏に引見される光栄をもつことだけは確かだろうと、わたくしは確信している。」
註に、「千家尊紀は、杵築の第八十一代の国造(くにのみやつこ)にあたる人である。その家系は、六十五代の国造と、十五代の地祇をさかのぼって、天照大神とその弟素戔嗚尊に達しているのである。」とある。
西田千太郎とは、どういう人か、説明がない。 たまたま、平川祐弘著『小泉八雲 西洋脱出の夢』第六章「草ひばりの歌」に、西田千太郎松江尋常中学校教頭(当時、27歳)の、例の人柱の噂のあった大橋開通式当日、明治24年4月3日の日記が引用してあった。
「三日、快晴、大橋開通式。松江市ノ賑ハ予ノ未ダ嘗テ見ザル処、渡リ初メニハ羽山某老夫婦及三築老夫婦、煙火奏楽ノ間ニ知事ニ携ヘラレテ之ヲナセリ。予ハヘルン氏階上ヨリ全式ヲ望見セリ。式了リテ後ヘルン氏及中山氏ト共ニ市街ヲ散歩ス。橋上ハ勿論市街殆ンド通行ニ悩ム程ノ多人数群集ス。ヘルン氏方ニ午飯ヲ喫シ、三人相共ニ灘町ニ本日ヨリ開場セル谷ノ音連ノ相撲ヲ観ル。」
『ばけばけ』で吉沢亮が演じている錦織友一は、どうやら西田千太郎がモデルのようだ。 20日に書いた佐野史郎の演じる、ラフカディオ・ハーンを松江に招聘した当時の島根県知事・籠手田安定(こてだやすさだ)がモデルの知事の役名は、江藤安宗だった。
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