林望さんの講演「福澤諭吉の志と勇気」2014/01/15 06:27

 記念講演は林望さん、福沢の志と勇気は大変なことで、近代ピカ一の思想家 ではないか、と始めた。 その思想は、足が地に着いている、一人一人がどう 生きるべきか、考えた。 男尊女卑の思想は、実は日本の歴史にずっとあった わけでなく、むしろ男女平等で、江戸時代でも実際はたいしたことはなく、例 外は明治時代だった。 富国強兵の国家は、男と女の役割を峻別する必要があ り、銃後の女を抑圧し、良妻賢母であることを強要した。 一方、元勲は妻妾 同居的世界にいて、子供が50人いても、たいした問題にならなかった時代で あった。 そのことに、生涯火を吐くような批判を加えて続けたのが福沢で、 見上げたものである。

 『福澤先生浮世談』(明治31(1898)年・『福澤諭吉 全集』第六巻)は、愛読書だ。 ケダモノのようなことはやめろ、「何でも此事 に就て心付いた人があれば、其心付いた其日から、先づ其一人が前日の非を改 めるが宜しい。」「或は又英雄色を好むと云ひ、心身屈強な者は必ず色に溺れる と斯う云て、妙な所に説を附ける者があるが、私は丸で反対で、如何しても色 に溺れる者は弱い者だと思ふ。真実強い屈強な精神を持て居る者でなければ、 己に克つと云ふことは出来ないことゝ思ふ。色に溺るゝのは、強さうにあつて 本当は性質の弱いのだ。」「今日の文明多事の世の中に居て、僅に品行を慎しむ 位の事が、自力に及ばずなどと云ふ事は決して許されない。自身の恥を知り自 国の名誉を重んずる心あらば、篤と考へて見るが宜からう。」

 生き生きとした文章だ、人の心を動かす話し方をされた方だろう。 世情は どうあれ、自分一人は断固としてしりぞける、凛凛たる勇気を持った人だ。

 『福澤先生浮世談』には福沢の女性観、女性尊重、家庭大事の考えが出てい て、女性が参加できる会合でなければ駄目だということを、いち早く述べてい る。 何の集会でも何の相談会でも、一切万事、不潔不養生乱暴滅茶苦茶の、 今の茶屋風の飲めや謡へやの馬鹿騒ぎを止めにして、西洋流儀にしたら少しは 改革の効能があるだろう。 西洋流のテーブルで西洋料理を飲食すれば、給仕 は無言で、話をするのは客と客と、誠に清浄潔白、これなれば男子ばかりでな く、良家の婦人、養育(そだち)の高尚な令嬢達でも、席に連なる事が出来る。  今の杯盤無茶苦茶の宴会に、貴婦人令嬢が出るものか。 それも芸者が本当の 芸者で、唄うか舞うかならば、その芸ばかりを見物してもさしたる故障はない けれど、醜業婦とも何とも名の付けようのない芸者共が、公然立派なお席に罷 り出て喋々喃々、男子はこれに戯れるという、そんな席に出られるものか。 浮 かれ男も少し考えてみるが宜い、と。(つづく)