ハーン、杵築大社の宮司、千家尊紀に会う2025/11/02 07:29

 階をのぼったところは、広い廊下になっていて、その廊下の奥行いっぱいに明け広げられてある、だだっぴろい天井の高い部屋へと、神官は案内して行く。 お宮が三つあり、まんなかの金襴の幕の垂れているのが、大国主神のお宮で、その前にかずかずの見たこともないような物が置き並べてある台がある。 そこに髯のはえたりっぱな人が、妙なかっこうに髪を結って、白い装束を着て、畳の上に端然と坐っている。 案内の神官が、われわれをその人の前に坐らせて、挨拶をするようにと指図する。 その人が杵築の宮司、千家尊紀であった。 わたくしが日本人の辞儀の式にならって、かれの前に平身低頭すると、先方は、初対面の異邦人をすぐと寛がせるような、きわめていんぎんな挨拶を返してくれた。

 千家尊紀は、まだ若々しい、有為の人物である。 この人のもっている威厳だけでも、いやおうなく尊敬せずにはいられないこと勿論であるが、わたくしのばあいは、そうした尊敬の念とともに、日本で最も古い国であるこの出雲の郷民から、この人が受けている深い尊信、つまり、この人が掌握している大きな精神的な力、それと神の末裔であるという言いつたえ、つまり、この人の血統が、太古から高貴なのだという考え、これがすぐとわたくしの脳裡にひらめいた。 そう思ってみると、わたくしの尊敬の念は、一種畏怖に近いものにまで深められた。 わたくしの通訳者が、通訳してくれる、かれのことばは、言々句々、じつにおおらかな、ていちょうをきわめた挨拶である。 わたくしは、分に過ぎた格別の厚意に深く謝するという意味のことばをのべて、精いっぱいの答礼にかえた。

 わたくしが、「杵築の大社は、伊勢の神社よりも古いのではございませんか」と尋ねると、宮司は答える。 「ずっと古うございます。ちょっと年代がわからんくらい、古うございます。神々だけがおいでのころに、天照大神の御命令によりまして、初めて当大社は建てられたのでございますから。その当時は、社殿もひじょうに宏壮なもので、高さ三十二丈、梁や柱などは、とても今日の木材ではつくれぬくらい大きなもので、骨組などは、長さ一千尋(ひろ)の栲(たく、コウゾの古名)の緒でつくりました綱で、しっかりとくくってあったものです。」

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