五街道雲助の「駒長」 ― 2024/05/29 07:05
入社試験の読みの問題に、「美人局」(つつもたせ)というのが出た。 ある受験者が「NHK」と書いたそうだが、私なら「TBS」と書く(拍手)。 お駒と長兵衛の夫婦。 お前さん、借金取りが来るのに、よく平気だね。 お前が平家になれ、俺は源氏になる。 借金取りも、首までは取らないだろう。 一文も金がない、祭の囃子、スッテンテンだ。 損料が溜まっている、背負(しょ)い呉服屋の丈八が、深川から来ることになっている。 損料ものを、質に入れるのはどうだ。 質(たち)が悪すぎるよ。 ひと狂言、書いた。 丈八は上方の贅六者(ぜえろくもん)、「アホ」と言う、「バカ」と言え。 「アホ」面(づら)かかせてやろう。 あの野郎、お前に岡惚れしているんだ。 商売物を広げていても目だけはお前を追っている。 竹馬履いて、梯子掛けて、昇ろうとしてる。
手紙を、一本書け、「恋する丈八さま、こがるる駒より、亭主の留守に会いたい」とか。 その手紙を落としたのを、俺が拾って読んで、野郎の横っツラを張り倒す。 うちのカカアに間男したな、俺は一緒になった時、仲に入ってくれた親分に話をつけてもらうよう頼みに行くって、飛び出す。 その間に、丈八とお前が話をして、お前の肩に手を回したところに、帰ってくる。 ピカピカの包丁を持って。 包丁は、錆びてるよ。 口で、ピカピカ言う。 畳に突き通す。 先が折れてるよ。 畳の間に通す。 損料をみんな取って、蹴り飛ばし、(一目山)隨徳寺を決め込む。
稽古しよう。 何の? 喧嘩の稽古だ。 ふてえ野郎だ、亭主の面に泥を塗りやがって! やらなきゃ駄目なの。 やんなきゃ駄目だ、懐が苦しいんだから。 ついつい、こういうことになって、しょうがないでしょ。 (長兵衛、駒を打(ぶ)つ。)何で、打つんだ。 私が悪かった、堪忍して下さい。 丈八、来たな。 「御稲荷様のお札、一枚いかが」 いらねえよ、そんなもの。
ちょっと、待って、おしっこ! 丈八、来ちゃうぞ。 (また、喧嘩の稽古)私が悪かった。 来たな。 糊屋の婆アだ。 こんなに、ぶたれるのは、嫌だよ。
来た、来た! ちょっと、待ちなはれ、長兵衛はん、なんでワテをどつくねん。 殺したって、すむもんじゃねえ。 お駒はんに、ワテが間男? 濡れ衣だ。 こういう証拠の手紙がある、勘弁できねえ。 俺は一緒になった時、仲に入ってくれた親分に話をつけてもらうよう頼みに行く。
何なんや、長兵衛はん。 丈八さん、あなたのことをお慕いしていて、すみませんね。 長兵衛はん、よくないね、こんないいおかみさんをぶったりして。 つぎはぎだらけのべべを着せて、まるで雑巾屋の看板だ。 わてなら、大事にしますんやけど、上方に一緒に逃げますか。 エーーッ! 仲良く暮らしましょ。 おかみさんに、してくれるの。 もちろん。 商売ものだけど、いい長襦袢と着物を着てみますか。 若くなったね、「天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ」やな、おいどの所に桜の模様、「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重に匂ひぬるかな」。 こっちの帯、よううつるな。 ようなったな。 早いとこ、逃げましょ。 手紙、書いておくから。
長兵衛、友達の家で、前祝いだ酒買って来い、二人で一杯やって、寝込んでしまう。 兄イ、起きろ、もうそろそろ夜が明ける。 そうか、出刃包丁貸してくれ。
いねえじゃないか、お駒。 手紙がある。 「長兵衛さま お駒より 一筆書き残し申し候、嘘から出た誠となり、丈八さまと夫婦となりて仲良く暮らすことに相成り候。 お前様とは長く貧乏のドン底にて、米の五合買い、一合買い、ああ嫌な暮らし、この数の子野郎、ちいちいぱっぱ、あらあらかしく」。 慌てて外に出ると、前の家の屋根に留まっていたカラスが、長兵衛の顔を見て、「アホウ!」
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