本井英主宰の、虚子句の「自他半」序論2025/08/10 07:38

俳誌『夏潮』も8月号で、第19巻19年目に入った。 『「夏潮」別冊 虚子研究号』も、Vol.XV、つまり15冊目となった。 その研究号に、本井英主宰の、虚子句の「自他半」という論考がある。 「連句」の用語で、芭蕉時代の後半から、一句を「人情(人間が登場するかしないか)」の有る無し、さらに、「その人物が」、自分か他人か、さらには両者が混在しているかどうかで、「人情なし(場とも)」・「人情自」・「人情他」・「自他半」の四つのカテゴリーに分類した。 これらが「二句前の句(打越という)」と同じにならないことで、連句の進行が停滞しない工夫とした。

これらは「俳句」とは直接関係ないものの、俳句に於いて、一応下記の分類をして見ることは可能である。 「場の句(人情なし)」…「自然や景ばかり」を材料とするもの。 「自」…自分の心の内などを一人称で詠むもの。 「他」…他者の言動を三人称として表現するもの。 「自他半」…自分と他人を同時に一句の中に詠み込むもの。

 虚子句の例を挙げると。 「場の句(人情なし)」<遠山に日の当たりたる枯野かな> 「自」の句<春風や闘志いだきて丘に立つ> 「他」<命かけて芋虫憎む女かな> 「自他半」<書中古人に会す妻が炭ひく音すなり>…「書中古人に会す」の部分は「自」、その家の主人公が書斎で、古い書物を読みながら、古の賢人に出会うような法悦の時間に浸っている、一方、庭先からは細君(「他」)がひそやかに「炭を挽く」音が聞こえて来る。主人公と其の妻を描く事で、一句の世界は洵に調和的に、静かな冬の午後の有様を伝えてくる。

 本井英主宰は、厳密な意味での「虚子全句集」が存在しない現在、岩波文庫『虚子五句集』所収の3187句を対象に「自他半」の句を数える。 「自他半」の句は351句、率にして約11%。 さらに、それが多いのか少ないのか、虚子周辺の代表的作家たち、所謂四Sの第一句集と比較する。 水原秋櫻子『葛飾』16/539=2.9% 阿波野青畝『万両』22/476=4.6% 山口誓子『凍港』12/297=4% 高野素十『初鴉』59/640=9.2%  四Sに比較して、虚子の「自他半」は圧倒的に多い。 素十ひとりが拮抗してはいるが、それでも虚子には及ばない。

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