前向きのバランス感覚で、人生の困難を切り拓く福沢2025/09/21 07:32

 Eテレ「100分de名著」『福翁自伝』第3回は「人生の困難を切り拓く」、斎藤孝明治大学教授の解説。 幕臣でない福沢は、咸臨丸渡米の情報を知ってアメリカへ行きたいと、蘭学仲間の桂川が軍艦奉行木村摂津守の親戚なので手紙を書いてもらい、木村摂津守宅を訪れ、従者にしてくれと交渉する。 命懸けの船旅で、木村の家臣も躊躇しているところの申し出で、木村は即承知する。 斎藤孝さんは、相手に勝つことではなく、双方が満足のいく合意を目指す「ハーバード流交渉術」だと言う。 BATNAバトナ(最高の代替案) Best Alternative To a Negotiated Agreement。 「ハーバード流交渉術」は、交渉のカギを握る7要素として、BATNA、コミットメント、コミュニケーション、関係、関心利益、オプション、正当性、を挙げる。 その中で、斎藤さんが重要だと考えるのは、関心利益、オプション、BATNAの三つだ。 福沢は、経験値が得られる。 木村は、従者が得られる。

 まず、入り込まないと、咸臨丸に乗らないと、いけない。 船が40度傾くような大変な航海、福沢は牢屋で地震に遭うようだと言い、平然と乗り切る。

 サンフランシスコに着いて、まず3、4月(1860(万延元)年)というのにコップに氷が入っているのに驚く。 カルチャーショック。 新婚の花嫁のように小さくなっていた。 女尊男卑、医者の家で奥さんが座っていて、夫が給仕等しきりに働く。 社会が変われば、人の考え方も変わる。 人間の摂理ではない、あくまでもその国のことだ。 20代の体験はフレッシュだ。 ホテルの豪華な絨毯を土足で歩くのに驚く。 工場の設備など、本で読んでいることは「驚くに当たらない」けれど、というバランス感覚。 福沢は、本で読んでも分からないことを、リストアップしていた。 経験値をあげることに、価値を置く。 それが福沢のスケールを大きくした。 少しずつ、成功体験を積んでいく。 物事を決断する時、成功か失敗かで考えない。 前を向く力が強い、自転車が倒れないのと同じ。

 文久2(1862)年、遣欧使節団に幕府の通訳としてヨーロッパへ行く。 日本の独立を保つため、日本のためという大局観に立って…。 英国議会で与野党が言い争っても、議事が円満に進行されていること、血を流さずに政権交代することを見る。

 帰国する4か月前に生麦事件があり、2年後には禁門の変が起こる。 攘夷論の最盛期で、洋学者には命の危険が迫る。 福沢は、外出を控え、もっぱら著書、翻訳に努める。 幕末の幕府軍、新政府軍の争いでは、双方に朋友がいて、極端なことをしないで、それなりに両方と付き合う、どちらかに肩入れすることはなかった。 正義感で熱くなり過ぎると、極端に走ってしまう。 大局観を持って、冷静に進めていかないと、物事は進まないとわかっている。 一つ芯が通っている物差しがあると、大抵の事は判断できる。 35歳、福沢には世の中の事情をよく知った上で、浮世に流されないバランス感覚があり、動乱の時代を生き延びた。

 新政府は福沢に、再三出仕するように要請するが、福沢は断る。 政治と啓蒙では、世界が違う。 新しい思想・知識を、世の中に広めることに、軸足を置いた。

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