柳家さん喬の「男の花道」中 ― 2025/03/12 07:12
中村歌右衛門の芸に磨きがかかって、名声は高まり、中村座は、毎日札止め。 半井源太郎は、神田お玉ヶ池の長屋で開業するが、医は仁術というので、相変わらずの貧乏暮らし、長屋連中がそれを養護する。
三年が経った。 老中、水野出羽守の公用人、土方縫殿助(ひじかたぬいのすけ)が勝手放題、向島の料亭に医者を集めて、大騒ぎをしている。 「♪瓢箪ばかりが浮きものか 私の心も浮いて来た 浮いて踊るは阿波踊り」。 良斎、二人でカッポレを踊れ。 「♪沖の暗いのに 白帆が見える あれは紀の国 みかん船 沖じゃわしのこと 鴎と云うが 隅田川では都鳥」、みんな腹をかかえて、笑っている。
半井だけが、部屋の隅で、下を向いていて、笑わない。 これ半井、これに来て、踊りを踊れ、歌を歌え。 生来の無骨者、踊れません、歌えません。 何を申しておる、わしを誰だと思っているのだ。 殿様が、唐人の踊りを所望だ、これに来て踊れ。 心得ませぬ、出来ませぬ。 踊らんか! 土方が、盃を投げる。 半井は、ヒョイと避ける。 この中には、踊りや歌の名人もおりましょう、私には迷惑でございます。 殿様に、謝りなさい。 芸者や幇間にも……、名人と申せば、坂東三津五郎、中村歌右衛門。 歌右衛門殿には、ちとご縁があります。 歌右衛門を、呼ぶと申したのか、呼べ。 ただいまは、中村座で芝居の最中。 芝居を止めても、呼べ、大言壮語を申したからには……、筆と紙を持て、歌右衛門に文を書け。 わかりました、さらさらと手紙を書く。 誰やら、歌右衛門のところへ持って参れ。 歌右衛門が来るなら、石が流れて、木の葉が沈むは。 土方縫殿助の意地悪な人柄が出る。
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