菊之丞の「景清」 ― 2010/11/28 07:12
黒紋付の菊之丞、全国へ飛ぶという。 先日は山中温泉、飛行機なら小松ま で1時間、乗っているのはたった40分、だが主催者は陸路を指定してきた。 越後湯沢まで上越新幹線で1時間半、「はくたか」に乗って3時間、加賀温泉 から30分かかって到着した。 長野の高校生が200人、修学旅行で山中温泉 に来て、落語を聴くという。 乙な高校生があるものだ、芸者は呼んでなかっ たが…。 福島へ何人かで行って小学生に一席、終わると舞台で花束贈呈にな り、籐で編んだバスケットをもらった。 帰りに福島の駅で、何が入っている のか見ると、ワンカップとつまみだった。 車中で一杯やりながら帰って来た。
お目のご不自由な方は、杖のつき方で、年を取ってから悪くなったのか、そ うでないかが判る。 年取ってからの方は、杖が先に出て、首が後ろに下がる。 怖いからだ。 小さい時からご不自由な方は、感がよくて、馬が来たか、電車 が来たか、わかると「景清」に入る。 杖を肩にかついで、♪「明いた目で見て気をもむよりも、いっそめくらが気 楽じゃないか」と、歌って歩いていた定次郎に、石田の旦那が声をかける。 「定 さん、左へおよけ」、へそ曲がりの定、よけずにしっぽを踏んで「わん!」 「恐ッそろしい長い犬ですね、さっき床屋の前に頭があった」 小川先生に引導を 渡され、手遅れと匙を投げられた定次郎、神仏にすがろうと、赤坂の日朝様に 通いつめ、ご利益があって、目の前に黒いものがスーッと見えた。 お袋が今 晩が大事というので、熱心に「南無妙法蓮華経」を唱えていると、隣に同じ境 涯のご婦人がいて掛け合いになる。 母一人子一人、親の存命中に片目だけで もと祈っていると、ご利益でお蝋燭が映るようになったという。 プーンと来 た、女の髪の匂い。 肘でつくと、ゆりっかえしがあった。 ものになるな、 二人の手が合ったとたん、真っ暗になった。 やい、日朝坊主、焼くのもいい かげんにしろ、ピューッと帰ってきた、わっしの目はよくならないと思います ね。 木彫りの職人で五人の指に入る定次郎、やってみても道具が手につかず、 傷だらけになる。 命にかえてもと面倒をみてくれている、オッカアに申し訳 がない、と泣く。
石田の旦那は、赤坂でなくとも上野の清水堂の観音様があるじゃないか、豪 傑の景清が自分の眼をくりぬいて納めた故事のある京都の清水の出店、三七、 二十一日といわず、百日通えと諭す。 百日の満願の日、「南無観世音菩薩、百 日、未納の期間なし、手拍子三つでパッと明けてください、ヒのフのミ」…「や い観公、観的、観印、詐欺、どろぼう」 頭を叩いたのは、石田の旦那。 「二 百日、三百日、命のあらん限り、おすがり」と叱るが、「立ちませんよ、帰れな いわけがある。 この縞物は、今日の為にお袋が縫ってくれた。 赤のご飯に 尾頭つき一本つけると待っている。 私ここで死にます」 無理に立たせて、 不忍池の弁天様の所まで来たところで、にわかの夕立、落雷で定次郎は目を回 す。 旦那は自分だけ逃げた。 九つの鐘が鳴ると、雨が止んで、息を吹き返 す。 「ハックション。 旦那ァ――」と見上げると、月も出ている。 月が 見える。 目が明いた。 お堂へ取って返し、お通夜をした。 目のない方に、 お目ができました。 お目出度いお話でございます、と菊之丞は下りた。
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