雲助の「干物箱」後半 ― 2012/02/28 03:50
二階で声がする。 何だ、帰ってきているのか、まだ二十分と経たない、こ れならいつでも外に出してやる。 お父っつあん、お休みなさい。 お父っつ あん、うまいでしょ。 何だ。 お休みなさい。 若旦那、いい蒲団に寝てい るな、絹布の二枚重ねだ。 本がある、何読んでいるんだろう、『学問のすゝめ』、 難しい本読んでいるね。 おや、燗がついているんだ、そっくり支度してある んだ。 上燗、上燗、毎晩こんなことしているんだ。 若旦那、今ごろ源公の 車でどの辺まで行ったかな、ラララララ、ルルルルル、源公は速いからな、ウ ォー、あばよって、前の車を抜く、ラララララ。 (下から、旦那)何を騒いで いるんだ。 アーーン。 お前に聞きたいことがある。 運座に行ってくれた よな、抜きは出たか。 出ました、巻頭の句は「おやのおん、よるふるゆきに おともせず」。 巻軸は? 「おはらめや、けさあらたまのすそながし」。 宗 匠、うまくまとめたな、もう一つ、聞きたいことがある。 運座の前に、無尽 があったろう、どこに落ちた。 神社のイチョウの木に落ちました。 えーっ、 何だって。 ワワワさんに落ちました。 何、ヤマダさんか? 山田さんに落 ちました。 もう一つ、若宮町のおばさんの土産、干物のようだったが、何の 干物だった? 魚の干物。 大きかったようだったが…。 ええ、鯨の干物。 鯨の干物ってのがあるか、ムロアジか何かじゃなかったのか。 そうです、ム ロアジ。 どこにしまった。 もう寝かせて下さい、助けると思って、お父っ つあん、お休みなさい。 どこだって。 丈夫な所。 箱か? 下駄箱。 干 物を下駄箱に入れる奴があるか。 干物箱。 馬鹿野郎、干物箱なんてぇのが あるか、鼠入らずだろう、茶箪笥にしまうから、持って来ておくれ。
ウーン、具合が悪い、おナカが差し込んで…。 しようがねえ奴だ、薬を持 ってってやる。 アッ、アッ、上がって来るよ、桑原、桑原、桑原。 おい、 お前、何で蒲団をかぶっているんだ、ケツから下が丸出しだ、きたねえ足だな、 ヒヨットコの入れ物、いつ入れたんだ。 (蒲団をめくって)お前は、貸本屋の 善さんだな。 明けましておめでとうございます、昨年中はお世話様になりま して…。 夜中に、年始に来る奴があるか。 お前はまた、うちの馬鹿野郎に 頼まれたな? ええ、馬鹿野郎に頼まれて…。
(下から)善公、善公ォ、忘れものだ、紙入れを洋ダンスの抽斗に。 おい、 こら、馬鹿野郎! 帰ってきやがったな。 えっ、善公は器用だ、親父そっくり だ。
雲助の「干物箱」、上々の出来、するする聴き終って、進境著しいのを実感し た。
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