春風亭一蔵の「佐野山」 ― 2025/09/06 07:00
春風亭一蔵、落語研究会は二度目だというが、コロナ禍の2022年7月29日の第649回は無観客開催で、その「熊の皮」は観ていない。 その時は真打目前の二ッ目だったが、やっと出られた、と。 力を抜いた喋り方が、上手いだろうという感じがして、気になる。 趣味はダイエット、特技はリバウンド。 落語家の階級を説明して、真打のあとはご臨終、降格はないから、どうなんだろうという真打がいっぱいいるけれど、名前は言わない。 大相撲のウクライナ出身の獅司関と仲が良くて、居酒屋に行ったりする。 SNSに出すのか、写真を撮りに来る人がいっぱいいる。 隣に真打がいるのに、獅司関の写真を撮りたいだけ。 獅司関に話しかけて、歳を聞く。 誰が教えたのか、「獅司16」と、松本伊代みたいなことを言う。
名古屋場所を観てきた、広くなって、涼しくなった。 外国人が多くなって、入口にガイドブック、中国語、朝鮮語、フランス語、ドイツ語、イタリア語等々、各種の版が置いてある。 英語版のガイドブック、十両はテン・ダラー、前頭はフロント・ヘッド、小結はスモール・リボン、関脇はジュニア・チャンピオン、横綱はグランド・チャンピオン、大関はワンカップ、噺家の言うことは、余所では言わないようにして下さい。
佐野山は、十両より上に上がれなかった。 心根は優しく、親孝行で父親の看病がしたい一心で、十両のどん尻、剣が峰まで落ちた。 まずいのう、次は幕下陥落だ、相撲を辞めなければならない、ともらしたのを、横綱の谷風梶之助に聞かれた。 谷風は、勧進元に頼む、次の場所で儂(わし)と佐野山の取組を組んでもらいたい。 回向院、晴天十日の六日目、谷風対佐野山の取組が発表されたので、大騒ぎ。 誰か訳を知っている者はいないか。 知っている、誰にも言うな、68人にしか言ってない。 実は、女だ。 エーーッ! 谷風の愛している女が、佐野山に惚れているんだ。 どこで知った? 『週刊文春』に書いてあった。
人は弱い方に味方するものだ、判官贔屓、とくに江戸っ子は…。 にわかに、佐野山の贔屓が増える。 佐野山は、ご贔屓に挨拶に行き、今日は負けてすみません。 明日は谷風、手ごたえがあり過ぎる。 結びの一番を取りたいという念願はかなったけれど。 では、やる気になる祝儀を出そう。 横綱の回しに触ったら、十両。 有難うございます、つかぬことを伺いますが、四つになったら? 四つになったら、三十両。 つかぬことを伺いますが、双差しになったら? 双差しになったら、五十両。 有難うございます、つかぬことを伺いますが、もしも勝ったら? 無い! 勝たないから。 相撲は取ってみなければ、わからない。 もしも、勝ったら? 身代投げうっても、百両切ろう。 明日、もらいに来ます。
父親に、暖かい布団、よい薬を買ってやりたいと、井戸水をかぶっては、鉄砲、摺り足。 井戸水をかぶっては、鉄砲、摺り足。 井戸水をかぶっては、鉄砲、摺り足、一晩中やった。 翌日、立っているのが、やっとという状態。 楽屋に祝儀が届くが…、今日はまだだ。 先日、大きな赤飯が届いて、上にポチ袋が乗っていた。 ポチ袋、使いなさい、と言われた。 お金かと、喜んで開けると、中にゴマ塩。 思い込みは、うまくいかない。
いよいよ、谷風対佐野山。 朝青龍対内館牧子というのが、昔あった。 佐野山! 佐野山!の、大歓声。 横綱の谷風は喜んで、お客様ぐらい有難いものはない、勝ちを譲りとうなったわい、と白鵬さんに聞かせたいことを言う。 最初に動いたのは谷風、佐野山の前回しを引き付けた。 佐野山は、立っているのがやっと、四つになった、三十両。 ウチの娘、来月八つになるんだが…。 双差しだ。 五十両。 谷風は、両上手で吊ったまま、佐野山を吊り出さず、徳俵の上に乗せて、右足を出した。 勇み足。 佐野山! 勝った! 佐野山! 勝った! ご贔屓は、渡しますよ、七十両。 値切るな。
引退を決意した佐野山、横綱谷風のところに挨拶に行く。 お前に負かされた、お客様に負かされた。 お前なら、何をやってもうまくいくと、百両(今の三、四千万円)くれた。 兄弟子の一之輔は、くれない。 何をやる? 漬物屋、今あるのはお父っつあんのおかげ、これからもコウコウが一番で。
柳家三三の「提灯屋」 ― 2025/09/07 07:02
お暑い中、お運びで、と三三。 広く知らせようと、今はネット広告なんてのがあるけれど、昔はチンドン屋。 子供が寄ってきて、ビラを何枚ももらう。 大人でも、女五人のチンドン屋からビラをもらい、指と指が触った、前から三番目が可愛かった、などと言う。 新しい店が出来たんだ、お二階にご案内! なんていいじゃないか。 どこに、何屋が出来たんだ? 読めない。 昔は引き札、天紅といった、駿河半紙に瓦版やこんにゃく版で刷ってあった。 今は活版で刷ってあるから読みやすくなった。 でも、読めないんで、次へ回す。 蕎麦屋なら、長く伸びたような字に、手がなくて、箸を誰が持っているのかわからない、蕎麦の絵だ。 鰻屋は、ヌラっとした字。 天ぷら屋なら、海老の絵があるだろう。 おでん屋は、三角の蒟蒻や大根、鍋の絵。 西洋ローリ(料理)なら、ナイフとフォークに、コック帽の絵だ。 中華ローリなら、渦巻きの鉢の絵だ。 なんだ、みんな読めねえんじゃねえか。
世の中は、弾みだよ。 テンと三味線が鳴れば、声が出る。 真夏の坂道、てっぺんからの下りが大変だ、ソロリソロリと下りるんだが、車が石に当たって、梶棒が飛び跳ねて、ガラガラガラガラーーッ、あぶねえ、あぶねえ! 何の話だ? はなの一字、ど忘れしちゃった。 二番目の字、生れる前からある字だ。 ぜんぜん駄目じゃないか。 世の中は、匂いだよ。 広告のビラを嗅ぐ。 わかった! 印刷屋だ。 バカ! 恥を知れ、江戸っ子だ。 兄ィは読めるのか? 俺も、読めねえ。
米屋のご隠居さんだ。 あの人なら、読めるだろう。 皆さん、お集まりで。 こういうのは、話の持ってきようだ、わっちは読めるんですが、読むとみんなに恥をかかせるんで、ご隠居さん、読んでくれますか。 年取ると、眼鏡が要る。 明日は、佐野山に谷風、広告だ。 昔は引き札、天紅といった、駿河半紙に瓦版やこんにゃく版で刷ってあったが、今は活版だ。 「提灯、唐傘店、開店」としてある。 誰だ、「お二階にご案内!」って、言った奴は。 「向う七日間、家紋の描き賃は無代にて、万一描けざる紋これあらば、お望みの提灯をタダで差し上げる。河原町三番地 提灯屋ぶら衛門」 提灯、タダでくれるんだ。
こういうのは、話の持ってきようだ。 お前の所が、提灯屋だな。 へいへい、提灯屋で、エヘヘ。 笑うな。 どんな提灯がある。 岐阜、小田原、伊達、高張、弓張、馬乗り、盆提灯から、ぶら提灯まで、何でも。 では、ぶら提灯を。 紋帳をご覧になって。 紋帳は、いらない、鍾馗様が大きな大蛇を胴斬りにした紋だ。 判じ物ですか。 もしなかったら、首をやる。 いらない。 わかりかねます。 鍾馗様は手に剣、大蛇はウワバミ、真っ二つでバミだ、「剣カタバミ」だ、ぶら提灯もらっていくよ。
兄ィ、もらってきたよ、ぶら提灯。 そんなことか、俺も行こう。 ぶら提灯をくれ、紋は「仏壇に地震」。 わかりかねます。 竜胆(りんどう)崩しだ。 俺もやる。 広告見て来た、ぶら提灯をくれ。 口、きけよ。 「床屋の看板が湯に入ったら、熱かった紋」。 わかりかねます。 熱いから、うめろ、「ねじ梅」だ。
お前さんとこ、提灯をタダくれるんだって。 ちがいます。 ぶら提灯をくれ。 ぶら提灯は、品切れで。 上に笠がついてるやつは? 馬乗り提灯で、高い。 いくらで、引き取る。 俺んちの紋は何にしようか、「ソロバンの読み声が八十一で、やっこさん商売して儲かったので、毎晩遊びに行って、かみさんが怒る。」 何の話で? 「かみさんが、やいのやいの言うんで、出てけって離縁して、可哀想だな」というような紋だ。 わかりかねます。 九九八十一、いっぺん利があったのに、去っちゃった、「括(くく)り猿」だ。 もらってくよ。
ご隠居さん、ありがとうございます、みんな提灯をタダでもらって来て、今晩提灯行列です。 お宅ですな、この広告を出したのは。 お前が諸悪の根源か、元締めかい。 埋め合わせに来ました、高張提灯を頂きたい。 一番、値が張る。 そうだろう、一対頂きたい。 元締めだな。 出来たら、家まで届けてもらいたい、紋を入れて。 エッ、そうきたか。 落ち着いて、ありきたりの紋だ、「丸に柏」だよ。 ちきしょう、さすが元締め、無理難題だ。 ちょっちょ、これを解かなきゃ。 落ち着いて。 喉のところまで、きているんだが…。 わかった、「すっぽんに、ニワトリ」だろ。
五街道雲助の「目黒の秋刀魚」 ― 2025/09/08 07:10
高座の上だけは、秋風を吹かせようというわけで。 お大名、初代は戦さをして成り上がったが、三、四代ともなると、乳母日傘でのんびりと育っている。 今日の菜は、味が落ちるな。 先日の菜は小松川にて下肥を掛けて育てたるもので、本日の菜は干鰯(ほしか)を掛けたものかと存じます。 遠慮はいらぬ、これに少々下肥を掛けて参れ。 余は、米の炊きようを覚えた。 釜に米一升を入れ、よく研いだら、水を手のくるぶしのところまで入れる。 しからば、二升炊く時は、いかがなさる。 両手を入れる。 三升では? 三升は……、足も入れる。
鯛は、一口しか食べない。 眼肉が乙だと言い、骨湯にして飲み、猫も跨いで通るのとは、違う。 鯛を一口、召し上がって、美味である、代りを持て、と仰った。 機転を利かせて、殿、庭の築山の桜が見事で。 桜をご覧になっているうちに、鯛をくるっと引っくり返して、代りをお持ちしました。 美味である、代りを持て。 早くしないとと、慌てるが、代りなど無い。 殿様、何なら、今一度、庭の桜を見ようか。 知っていた。
欣也、晴空万里、目黒へ野駆け(遠乗り)に行くぞ。 早く、殿の後を追え。 目黒は、山あり谷あり、野趣に富んだところ、徒歩にて二本足、馬の四本足には、とてもかなわない。 ようやく追いついて、徒歩なら殿に負けません、あの一本松まで駆け比べいたしましょう。 しかし、主人より先に出る奴があるか、と言う。 野駆けと駆け比べで、みんな腹が減った。 一本松で、弁当をこれに持て。 火急の出立で、そんな用意はない。 スカーーンと抜けた青い空、赤とんぼがツィーツィーと飛んで行く。 欣也、あのとんぼは、食せぬか。 すると、どこで焼くやら、秋刀魚を焼く匂い。 あれは何じゃ。 秋刀魚と申して、下々の食します下魚で。 いざ戦さの折もあろう、目通り許すぞ。 網も使わず、炭の中に投げ込む隠亡焼、これが一番うまい。 許せよ、何尾ある。 三尾で。 三尾、譲ってもらいたい。 これでは、村中でも釣りはありません。
縁の欠けた皿にのせ、大根下ろし、醤油を壺に、ジューーッ! 爆裂弾である。 食しても、大事ないか。 天下の美味でございます。 その、美味いのなんのって、旬の脂の乗った秋刀魚が、焼き立てで。 美味である! 殿様、自分で、裏表を引っくり返した。 骨が残った、その方に遣わす。 お城では、何分にも、ご内聞に願います。 だが殿様は、秋刀魚が頭からはなれない。 さんま、さんま さんま苦いか塩つぱいか。 そが上に熱き涙をしたたらせて さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。 あはれ げにそは問はまほしくをかし。 佐藤春夫のようになっている。
欣也、長やかなる、黒やかなる魚、美味であった。 ご内聞に願います。 そこへ、ご親類の大名から招待状、お好みの料理の名を、と。 余は、秋刀魚である。 ご大身が、秋刀魚? 長やかなる、黒やかなる魚である。 すぐに仕入れろ、日本橋の魚河岸で本場の房州物、樽に入った秋刀魚を取り寄せる。 脂を抜こうと蒸して、小骨は天眼鏡と毛抜きで全部抜く。 ぶつ切りにして、お椀に入れ、あんかけにして出す。 これは、秋刀魚か。 ほんのかすかに、秋刀魚の匂い。 久しいのう、そちも堅固でなにより。 不味い! いずこで、求めて参った? 日本橋の魚河岸で、本場の房州物を。 それがいかん、秋刀魚は目黒に限る。
柳家喬太郎の「お若伊之助」前半 ― 2025/09/09 07:11
落語研究会、何度も出ているけれど、アウェーな感じが抜けない。 「任侠流山動物園」を……、(袖の方を向いて)わかってるよ、「お若伊之助」やるよ。 雲助師、高座の上だけは、秋風を吹かせようと、単衣の着物で。 こちらは夏物の着物で、冒頭、春のシーンから入る。 また、コロナが流行っているそうで。 数年前は、みな節制、まるで戒厳令が敷かれているよう。 世の中、変わるということは、こういうことかと、思った。 今は、昔に戻ったけれど、油断できない、終戦後ってこれくらいか。 当時は寄席も休みで、散歩に出ると、正蔵から電話で、「寂しい」と。 歌武蔵とはメールをし合ったりして、普段しないことをしようと髭を無駄に延ばす、髭の写真を送り合った。 120キロの巨体、イメージで、兄さん高橋是清みたいですねって。 何だったんだろう、生活様式が変わった。
幕末、慶応から明治、江戸の匂いを知っている人は、価値観が定まらない。 下根岸、剣術指南の高根新斎と、姪のお若が、二人暮らししている。 三月弥生、お若の住む離れには、桜の花びらが散って来る。 思い出すのは、伊之助のこと、母は雛を送ってくれたが、なぜ伊之助は来てくれない。 逢いたい、逢いたいと、悶々としている。 夕間暮れ、垣根の向こうに一人の男、想い人に似ている姿。 伊之さん! 目と目が合う、やっと尋ねて来てくれたか。 どうぞ、中に入って、伯父は来ないから。 すぐに、嬉しいことになる。
外から帰った高根新斎は、垣根越しに見た、菅野伊之助ではないか、大枚の手切れ金を渡したのに…。 おのれ、踏み込んで三つ八つに斬るのは簡単だが、鳶頭の初五郎が間に入っている、敷居が鴨居だ。 妹が、横山町の堺屋に嫁いでいる。 娘のお若が一中節を習いたいというので、初五郎がいい芸人がいると菅野伊之助を紹介した。 その伊之助が、お若と理無い(わりない)仲になった。 お若は一人娘、跡を継がせねばならぬ、生木を裂くように別れさせた。 しかし、その伊之助が、また通って来る。
鳶頭、なぜ伊之助がここを知った。 そんなわけはありませんよ。 わが姪が、伊之助にしなだれかかっていたんだ、昨夜のことだ。 本当ですか、野郎の所へ行って、話を聞いてくる。 洒落にもならねえ。
柳家喬太郎の「お若伊之助」後半 ― 2025/09/10 07:08
伊之! 鳶頭、お早うございます。 何の真似をしているんだ、穴があったら入りたいよ。 そんなこと、芸人の風上にも置けません、大枚の手切れ金を頂いていて。 何で、逢いに行きやがるんだい。 逢いに行ける訳がない。 伯父さんが、昨夜、様子を見ていたって言うんだ。 どういうこったい。 鳶頭、昨夜、一中節の稽古をした後、あなたのお供をして、吉原へ行った。 山口巴屋に、朝まで一緒にいたじゃあありませんか。 そうか、忍んで行ける訳がないな。 ちょっと、行って来る。
まことか。 鳶頭は、大層飲んだか、飲んで寝てしまう癖はないのか。 引けが12時、根岸と吉原は、目と鼻の先だ。 お前は、寝転(こ)かしを食ったんだ。 先生、行って来ます。
伊之、根岸と吉原は、目と鼻の先だ。 お嬢様は、根岸ですか。 何でわかった? 今、あなたが、言った。 あなたは一中節を思う存分語るとおっしゃって、商売人の目の前で、まわりの連中は舟を漕いでいましたが、私は聞いていました、あなたの一中節を……、根岸に行ける訳がない。
再び、根岸へ。 冗談じゃねえ、あまり寝てないんだ。 先生! という訳で。 お前のあの一中節を、朝まで聞いたのか、伊之が気の毒だ。 左様か、あい分かった。 鳶頭、起きなさい! 宵になったら、また来てくれ。 一緒に確かめてもらいたい、目が四つの方が確かだろう。
鳶頭、起きてくれ、今宵も伊之が忍んで来ている様子だ。 お前も一緒に確かめてもらいたい。 母屋から離れへ、そーーっと、お若の部屋の唐紙をほんの少しだけ開ける。 伊之が、来ている。 先生、仰る通りだ、伊之公でござんす、間違いございません。 今夜はそうだ、あい分かった。 高根新斎は六連発の短筒、ピストルを手にして、参るぞ。 バン! 弾は伊之助の胸元を貫いて、お若は気を失う。 伊之、面を見せろ、先生、伊之助じゃござんせん。 狸! 年経る狸でございます。 夜毎、たぶらかしにきていたのだ。 一件落着でございますね。 さて、どうかな。 先生! 身共の見立てたところ、お若は懐妊しておる。
十月十日が過ぎて、子供が生まれた。 男と女の双子、タネは狸だ。 お若が、愛しいのはわかるが、このままではいけない。 よい里親を、二組見つけて、育ててもらうことにした。 しかし、運命の糸は、これから狂って参ります。
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