柳家喬太郎の小泉八雲原作「雉子政談」 ― 2025/10/11 07:10
2016(平成28)年7月13日の第577回の落語研究会で、柳家喬太郎が小泉八雲作の『雉子のはなし』と『かけひき』を編集して、「雉子政談」として演じた。 それを二回に書いていたので、再録する。
喬太郎の小泉八雲原作「雉子政談」前半<小人閑居日記 2016.7.21.>
喬太郎は薄い青緑の袴。 ウルトラマン放送開始50年、ウルトラマンは僕らの胸に生きている、それを支えに噺をしたい、と。 噺家は仕事がなくても、ダラダラ送れる商売。 用があるな、と思ったら、パチンコだった。 でも不思議に仕事が重なることがあり、代演に行くことがあったりする。 多少は幾らかになる。 この後、末広亭の代演、たい平のトリ。 落語研究会は、やっつけ仕事で…(苦笑)、がんばりたい。
お笑いでない噺もある。 里山の百姓、亭主は畑仕事をし、女房は機を織って、穏やかな年月を暮している。 ある晩、女房がぐっすり寝込んでいると…。 やい、お光。 何ですね、お父っつあんじゃございませんか。 三年ぶり、元気ですか。 死んでるからな、元気ってことはない。 何で、化けて出たんです? 夢ん中だ、お前さんに頼みがある。 私は、近々、恐ろしい目に遭う。 その時、助けてくれ。 頼んだよ、お光。
あんた、そういう夢を見たんですよ。 実の倅の方に、出ればいいのにな。 親父は昔から助平だったからな、嫁の夢に出たのかな。 気にしていて下さい。
お光が機を織っていると、遠くからケーーンと、雉子の鳴く声がした。 バサッバサッと、家の中に入ってくると、くるっと回って、お光の前で、ケーーン、キャーーン。 右の目がつぶれているね、お父っつあんだ。 キャッ。 お父っつあんじゃないの。 キュッ、キュッ、キュッ、キュッ。
茂十の家に入ったようだぞ。 お光は、雉子を空の米櫃の中に隠す。 ちょっくらご免、雉子を撃とうと思ってな、雉子、入ってこなかったけ。 入ってきませんでしたよ。 ネコババしてはなんねえ、家探しさせてもらう、とみんなで探す。 米櫃の中は、探さない。 お光さん、すまねえことをしたな。 みんな、行くべえ。 あそこにおったぞ。 なんだ、味噌を付けた馬だ。 放送をしたら、びっくりするぞ。(喬太郎の前、台所おさんが「馬の田楽」を演じた。)
夕暮れ、亭主が帰って来る。 本当にお父っつあんが来た。 米櫃から雉子を出す。 確かに右の目がつぶれている。 お父っつあんか? キュッ、キュッ、キュッ。 親父だな。 村の衆に追われて、撃たれちゃうところだった。 こっちに貸してくれ。 お父っつあんかい、久しいな。 親父の心が、わかる気がする。 よかったな、生き延びて。 野に放てば、猟師に撃たれるか。 せっかく、雉子になったんなら、倅夫婦に食われたいか。 首を絞める。 キュ! お光、ごっつおうだぜ。 何をするんです、お父っつあんですよ、恐ろしい目に遭うって、このことなんですね。 雉子だ、雉子だ、つまんねえことで、くよくよするな。
喬太郎の小泉八雲原作「雉子政談」後半<小人閑居日記 2016.7.22.>
お前さんが、恐いよ。 親を殺した。 お光は、土地の地頭の所へ駆け込む。 地頭は人間味のある方で、お前の亭主がそんなことをしたのかと、家来をやって、亭主は後ろ手に縛られる。
三日留められて、お白洲へ。 茂十、顔を上げろ。 親殺しの罪だ。 雉子です。 女房が舅の夢を見て、夢の通りに現れた。 その女房の前で、首を絞めた。 かようなことができるのはな、近郷近在で、家々に忍び込み、金品を奪い、女子供まで殺す、霞の清兵衛は、そなたじゃあないのか。 何をおっしゃっているのか。 翌日、白洲へ出さなかったのは、手下の一匹でも捕まえられればと、思ったからだ。 一匹捕まえたら、簡単に吐きおった。
家々に忍び込み、金品を奪い、女子供まで殺す、霞の清兵衛、観念せんか。 あらわれちゃあしょうがない、締りもしないで、寝ている奴が悪いんだ。 即刻、打ち首だ。 上等だよ、お光がつまらねえことで、駆け込みやがって。 後々まで、祟ってやる。 ここにいる奴、全部、七生の後までも。 恨み、つらみだ、首になっても、動いて見せるは…。 そんなことが、できるのか。 やってやる。 生首になって、飛び石に食いついてやる。 俺に出来ねえことはない、やってやる。 後々まで、祟ってやる。 ソレッ、打ち首。
ワーーーッ! ヒャーーッ! 大丈夫だ、心配するな、これで終わりじゃ。 しかし、動きました。 それだけを念じて、死んだ。 全て果たして死んだから、成仏することだろう。 心配するな。
これ、お光。 お裁き、有難うございます。 そちには、よき亭主を持たせてやろう。 せめて形見を、最期の着物、私の縫ったものでございます。 あの着物、悪いことばかりじゃなかったので…。 そちはキジを大事にするのう。
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