与太郎の真打披露、小夏の子が産まれる ― 2025/10/17 07:06
翌年の早春。 松田は、来週から助六を襲名して真打披露する与太郎の準備に余念がない。 八雲の家に来ても、小夏のところに寄らない与太郎に、お腹がこんなに大きくなった、来ないと化けて出ますよ、と。
八雲は、三味線を弾きながら、春の雪だねえ。 うたた寝している小夏に、風邪を引くよ、と横になり、「あくび指南」を話しながら、小夏の頭をなでる。 小夏が子供の頃、助六が「あくび指南」をやると、寝ちまった様子が、オーバーラップする。 八雲は小夏に、与太の準備でくたびれた、と言い、私を殺さないね、と。 小夏は、殺したいけれど、この腹の子にあんたの落語が聞かせられなくなる。 私、怖い、産むのが。 与太が来ても、部屋から出ない、喧嘩をしたのかい。 プロポーズされたけれど、断った。 母さんと同じになるんじゃないかと思って。 何か、言ってよ。 真打披露の初日は、必ず見に来なさいよ。
師匠が与太郎の部屋に来る。 初めて来たけど、懐かしいねえ、こんな部屋で「死神」を習った。 来週は真打披露、今後は稽古はつけない、最後の稽古だ。 一度っきゃ、やらないよ。 「芝浜」を始める。 ちょいと、お前さん起きとくれ……、おっかあ開けてくれ……、夢にしちまったんだよ堪忍しておくれ。 雪の中を、八雲が帰って行き、助六が横を歩いている、あとは助六、あんたの出番だ。
与太郎の助六、真打披露、客席に松田と小夏が来る。 トリの助六、手を挙げて登場。 「芝浜」を始める。 マクラ無し。 馬鹿に素直で、夢にしちまったんだよ堪忍しておくれ……、五十両、夢じゃなかったんかい。 小夏は(腹に手を当て)、父ちゃんの落語が聞こえる、と。 辛え思いをさせたな、俺が悪かった、この通りだ勘弁してくれ……、お久し振りだな……、飲まないのかい、やめておこう、また夢になるといけねえ。 拍手、拍手、拍手! ヤッ日本一! 両親に囲まれた子供の小夏に、父ちゃんと母ちゃんと、どっちが好き? 痛い! 痛い! と、腹を抱える小夏。 お嬢さん! 救急車を! と松田。
病院に、助六が駆けつけ、松田と萬月は、逆子で予定日より早く、危ないかも、と。 八雲は、誰もいない寄席へ行き、ひとり「寿限無」をやっていた。
苦しみいきむ小夏、この子だけは助けて、と。 おぎゃあ、おぎゃあ! 与太郎が駆けつける。 アネさん! 与太! 与太、一緒になろう、私、与太と、この子を助六の孫に育てたい。 合点、承知だ!
名前は信之助、父ちゃんの名前から信の一字をもらいたい。 信ちゃん! よー、信坊! 信坊、父ちゃんだよ。
師匠、アネさんと所帯を持ちたい。 あの子がどうしたって、自由だ。 お前だけは、一人前の弟子にした。 もう一つ、この家にご厄介になって、家族になりたい、みんなで暮らしたい。 助六を名乗ったからって、代りにはなれっこないけれど、でもいつか名前が馴染めば、二人の中の助六をきっと叶えられる。 八雲は、好きにするさ。 松田は泣き、こらえきれずに立つ。
小夏は、少しだけ思い出した、25年前、父と母が死んだ夜のことを。 松田は八雲に、本当のことを伏せておいて、いいんでしょうか。
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