『図書』《小泉八雲の古き心》佐野史郎・小泉凡・荒俣宏 ― 2025/10/20 07:05
岩波書店の『図書』10月号に、朝ドラ『ばけばけ』で、ラフカディオ・ハーンを松江に招聘した当時の島根県知事・籠手田安定(こてだやすさだ)役(ドラマでは別名だが…)を演じる、俳優の佐野史郎さんが「路地裏の古代」というエッセイを書いている。 ドラマでは実際の人物像と外れているのもご愛嬌だそうだが、籠手田安定の前任は滋賀の知事に当たる県令という役職。 なにしろハーンが来日した明治23(1890)年は、大日本帝国憲法が施行された年、それまでは各省庁、役職(の名)も試行錯誤であったのだろう、とある。 そのあとに、ハーンは冬の寒さに耐えかねたこともあって、1年3ヶ月ほどで、松江を後にしたとあるが、松江での濃密な仕事が1年3ヶ月ほどの経験だったことに改めて驚く。
『図書』10月号は、この佐野史郎さんのエッセイを含め、《小泉八雲の古き心》の特集で、巻頭の「“読む人”・書く人・作る人」は、八雲の長男一雄の孫・小泉凡(民俗学)さんの「怪談に導かれて」と、荒俣宏さんの「八雲と『怪談』と平井呈一のこと」が掲載されている。
小泉凡さんは、「祖父一雄の笑顔を微かに覚えている。幼稚園から帰宅すると、祖父はしばしば平井呈一氏と幸せそうに話し込んでいた。そして私の顔を見ると平井氏はいっしょに電車ごっこに付き合ってくれた。その時には、著名な怪奇文学の翻訳家であることなど知る由もない。佐野史郎さんとは、「小泉八雲・朗読のしらべ」を七十数回ご一緒している。いずれも怪談に導かれた嬉しいご縁である。」と、書いている。
荒俣宏さんは、小泉八雲の果たした怪談の近代化には、英文からの翻訳が必要で、平井呈一ほどその作業を一生の仕事と位置づけた人はいないと思う、とする。 彼は、昭和15年に岩波書店で刊行した『怪談』を訳出して以来、死ぬまで訳稿を推敲、改良しつづけた。 呈一は、翻訳に当たり、いち早く八雲の長男であった小泉一雄と交流し、細かい部分まで意見や教示をもとめた。 八雲自身の生の英語と日本語のニュアンスを知る一雄が納得するまで、小泉邸に通い詰めている、とある。
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