さん喬の「小言幸兵衛」2006/10/02 07:05

 独断と偏見の男、麻布古川の家主・田中、「小言幸兵衛」には仕立屋・心中バ ージョンと、搗き米屋・仏壇位牌回転バージョンがある。 柳家さん喬のは、 前者だった。 貸家の札を見て、まずやって来るのは、乱暴な口を利く豆腐屋。  はなから「ちんたな」ばかり尋ねて、物は言い様、口は利き様だと、幸兵衛に 叱られる。 ここでたちまち「堪忍しておくんなさい」と謝るさん喬の豆腐屋 は、おとなしい感じで、後の仕立屋とのコントラストが弱い気がした。 世帯 を持って七年、子供がいないと聞いた幸兵衛に、「三年子なしは去れ、という。 別れろ、別れろ」と言われて激怒、「逆ボタル、アンニャモンニャ、誰が越して くるもんか、バカヤロー」と去る。

 次に来る「通行の者でございますが」「けっこうなお借家」「拝借できましょ うや、その段承りたい」と、丁寧なのが仕立屋。 「バァさん、布団持っとい で」「寝る布団持ってきて、どうするんだ」、「お茶」だ、「安政二年の羊羹」だ、 と気に入る。 「羊羹だけにアンセイ」という洒落は、ちょっと考えさせられ、 いただけなかった。 でも、倅が二十歳、親を凌ぐ腕で器量良し、独身と分か り、お向かいの古着屋のお花(19)が登場して、清元を一段語り、その三味線で どどいつの回しっこになったあたりから、俄然面白くなった。 「ポコランポ コラン、ポンポコラン」の「膨満感」から、幕が開いて、浅葱の一枚幕、洲崎 の堤、心中の道行きとなる。 「そうだ、倅の名前を訊いていなかった」「出口 杢太左衛門」「なんて間抜けな名前なんだ」七ツの鐘がゴーーンと鳴り「宗旨は」 「法華」「古着屋は真言、オンガボギャー」のあたりの、可笑しかったこと。 さ ん喬が前半を溜めていたのは、その辺の計算があったのかもしれない。