ダワーの『敗北を抱きしめて』のこと2008/09/15 05:38

 『二十世紀を読む』の中に出てくる本で、私の読んだのがもう一冊あった。  直接選ばれた15冊ではない。 五人の会の方々の関心からすれば、当然取り 上げられるはずなのに、他の本を読んだあとの議論のなかで繰り返し参照され て、更めて取り上げるまでもなくなったからだと伊藤さんの「あとがき」にあ る。 ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』(岩波書店)である。

 この本のことは、例えば東大教養学部卒で、市民権も得てアメリカに在住、 カリフォルニア大学の教授をしている長谷川毅さんの『暗闘 スターリン、トル ーマンと日本降伏』のところで出てくる。 アメリカの現代史本の特色として、 著者の観念やイデオロギーの前に、その時代の事件、人物やファクトを丹念に 集めて、現代史を構成する語り口を持っている、そこに共通点がある、と櫻井 さんが話している。

 石井さんは、劉傑・三谷博・楊大慶編『国境を越える歴史認識』を読んだ時、 『敗北を抱きしめて』を読み直して、その「序」に読み飛ばしていた文章があ ったのに気がついた。 「日本占領のもっとも悪質な点の一つは、帝国日本の 略奪行為によってもっとも被害を受けたアジアの人々―中国人、朝鮮人、イン ドネシア人、フィリピン人―が、この敗戦国でまともな役割、影響力のある立 場をなんら獲得できなかったことであった」「アメリカの勝利にすべての焦点が あたったために」、権力構造の頂点にあった占領軍はほとんど、すなわちアメリ カだったという指摘だ。

 実は私も、この部分は読み飛ばしていた。 しかし、考えてみれば、ほとん どアメリカによる占領で、日本は助かった面もあったのではないか。 中国、 イギリス、ソ連までも含めた各国による占領となると、混乱はさらに増幅され たろうし、国土分割の可能性もあった。 現在に至る朝鮮半島二分の事態を思 うと、日本は幸運であったというべきだろう。