志の輔「井戸の茶碗」前半 ― 2012/05/04 02:58
「事実は小説より奇なり」と、志の輔は始めた。 岐阜県で裁判が続いてい る。 養蜂場の隣に、中小企業の会社が越して来た。 蜂が、隣に人が来たぞ と、お邪魔して、刺したりする。 刺された人が増えて来たので、社長が養蜂 場に行き、「お気を付け頂きたい」と言った。 「申し訳ない」と言うのかと思 ったら、「そんなことを言われても、ウチの蜂だかどうかわからない」と。 そ れで、殺虫剤を用意し、蜂が来たら、殺してもかまわないということにした。 養蜂場の方は、出かけて行った蜂の帰りが、どうも寂しい。 隣の会社に行く と、足元に蜂が落ちている。 商売道具に、殺虫剤をかけたり、踏み殺したり するとはと文句を言うと、「そんなことを言ったって、オタクの蜂だかどうだか」
「クズーーイ」屑屋の清兵衛が、長屋に呼ばれる。 可愛らしいお嬢さんだ が、着物は汚い。 土間の隅の紙屑に、六文のところ、七文置いておく。 仏 像はどうかと、昼は読書指南、夜は売卜の浪人千代田朴斎、無理にと言われ、 二百文で預かり、高く売れたら半分ずつにと、正直清兵衛。 細川候の屋敷か ら下を見て、声がかかった。 床の間に置いて、手を合わせるものが欲しい。 籠の中にあるのはゾウか、ブツか、五つ目の高木の小屋へ持って来い。 江戸 勤番になったばかりの高木作左衛門という若侍、供の良助に三百文出させる。 盥の水に塩を入れて洗うと、台座の紙がゆるんで、小判で五十両出た。
細川候の屋敷に近い清正公様、出商人が集って弁当をつかう。 みんな、細 川候の屋敷で声をかけられている。 仇を探しているに違いない。 黙って通 れと。 二日、風邪で休んでいた清兵衛、話を聞いて、黙って通ろうとして、 つい「石焼イモー」。 高木に呼ばれ、小判の出た話を聞いて、相手の話をする。 貧に窮している、戸を開けると音がする、「ビンボー」と。 先方に返してまい れ、全部、仏像は買ったが、中の五十両を買ったつもりはない。
だが千代田朴斎、痩せても枯れても武士は武士と、どうしても受け取らない。 なんだこれは、お前いくつだ。 四十。 あれはわしが売ったのだ。 それは わかりますが、後ろの景色、趣、傾き…。 黙りなさい。 返して来い、娘、 刀を!
やむを得ず高木の所へ返しに行く。 ワタシ、オカネトドケタ、デモ、ウケ トラナイ、トテモ、ヨイヒトヨ、ワカリマシタ。 待て屑屋、お前それ位のこ とで、帰って来たのか。 良助、槍を!
こういう時は大家さんと、相談に行き、高木氏二十両、千代田先生二十両、 屑屋が十両で、どうだということになる。 高木は二十両を受け取ったが、千 代田は受け取らない。 何か一品、向うにお渡しになればと、屑屋が説得する。 実に恥ずかしい、形あるものはこれしかないと、父親が湯茶を飲み、自分も朝 晩茶を飲んでいるという口の開いた茶碗を渡す。 この噺、これで終了では、 お客様も今晩眠れない。
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