白酒の「井戸の茶碗」2014/01/28 06:35

 桃月庵白酒、入門者の増えるシーズンだ、つまり受験シーズンだから。 受 かったから、もういいです、というのもいる。 白酒は、就職できなかったか ら、(この道に)入った。 掃除なんて、やったことがなかった。 アスファル トの隙間のゴミを拾っていたら、それゴミじゃないよ、って言われた。 洗い 物をすると、茶碗を割った。 割りました、と言うと、気を付けなよ。 二日 目も割った、三日目も。 言わなくても、いいよ。 正直が一番、ジョージ・ ワシントンの逸話もある、謝まりゃあいいんだ、と思っていた。 でも、裸の 王様も、ハダカだって言っちゃえば終りになる、正直もほどほどだ。

 麻布谷町の屑屋の清兵衛さんは、正直者、曲がったことが大嫌い。 清正公 様の脇の長屋で、可愛らしいが着物は汚い娘さんに呼ばれた。 父上、屑屋さ んをお連れしました。 と、白酒は始めた。 「井戸の茶碗」、私の好きな噺で、 2006年7月24日の当日記に入船亭扇遊のを、2012年5月4日・5日に立川志 の輔のを、丁寧に書いている。 それぞれ、「聴衆一同、よい気持になって、国 立小劇場をあとにした」、「お爺さんの目に涙であった」と、感想を述べていた。

 登場するのは、正直清兵衛のほか、昼は素読指南、夜は売卜(ぼく)の浪人 千代田朴斎、その娘・絹。 細川の殿様、その家臣で江戸勤番になったばかり の高木作左衛門という若侍、供の良助。

 白酒独自と思われるところだけ、いくつか書いておく。

 (1)仏像の材質。 木か、瀬戸物か、銅か? ドウでしょう。

 (2)仏像の胎の中にもう一体仏像があり、台座から五十両が出て、窓下を 通る屑屋を全て検(あらた)める。 かぶり物を取れ、長い顔だな、馬より勝 る。 黒い顔だな、それは顔か、裏か表かわからぬ。 よくその顔で今まで生 きて来たな、勇気をもらえたぞ。

 (3)屑屋仲間の推測。 あれは親の仇を探しているんだ、面擦れを見てい る、指南番に違いない。 指南番て、鴨南蛮の仲間か。 指南番が若侍の父を 斬り殺して江戸表に逃げ、屑屋に身をやつしているという噂を聞いたんだ。

 (4)ご浪人のお名前は千代田朴斎、昼は素読指南、夜は売卜。 昼はソド ムとゴモラ、夜はバイブル、宣教師か。

 (5)娘さんは、あんなにきたない、いや質素な形(なり)。 屑屋が質素と いうのは、大変なもので…。

 (6)細川のお殿様、目通りを許す。 焼物が道楽で、今は忙しい最中なの に、茶碗に目が無いから。

 (7)千代田朴斎が二十両の形(カタ)に、高木に茶碗を渡す時、娘の絹を つかわしていた。 「井戸の茶碗」と判明して、百五十両を受け取った千代田、 独り身と確認して、高木氏に差し上げたいものがある、娘十六、女一通りのこ とは仕込んである、百五十両は支度金に。 お絹さんは? むろん承知の上だ、 あれ以来、何かと高木氏の話をする。 清兵衛がその話を持って行った高木作 左衛門の方も、良助に言わせれば、あれからお絹さんの話ばかりしている。 国 許に問い合わせると、まず当人の気持だと。

 白酒、このいい噺を、現代にも受け入れられるラブ・ストーリーに仕立てた のであった。