さん喬の山田洋次作「頓馬の使者」前半2014/06/09 06:42

 最近の結婚式、けっこうお金をかけてやるようで。 昔は婚礼といい、仲人 がとりもった。 今は、できちゃったからという既成事実も。 偕老同穴とい うのは、網の袋の中に海老が入って、網目より大きくなって、一生暮らす(辞 書によれば、カイロウドウケツ科の六放海綿類の一群。胃腔中にドウケツエビ が住み、多く雌雄一対が共にいることから、このエビに「偕老同穴」の名がつ き、のちに海綿の名にもなった)。 一生添い遂げる、などは近年、出来ること ではない。 五代目小さんとおかみさんの夫婦、おしどり夫婦というが、おし どりというほど美しくはなかった。 おかみさんが階段から落ちたことがあっ た。 志ん生が「ん、もりちゃん(本名小林盛夫)、大変だなあ」。 「死ぬか と思ったんだが…」 「そう、うまくはいかないよ」 よく取っ組み合いの喧 嘩をしていた。 小さんは剣道をやっていて、手や足ではかなわないから、お かみさんが、ペッペッとツバを吐いていた。 嫌な夫婦喧嘩だった。 可愛ら しいところもあって、師匠が出かける時、靴を履くのに靴べらを渡し、ほっぺ たにチュッとした。 キュートな感じ、その気持ち悪さ。 弟子の前だから、 やったんでしょう。 本気でやっていたら、師匠への思いも変っていた。

 いるかい、吉原(なか)へ遊びに行かねえか、吉公と六と四人で。 清公も 誘う。 よそうよ、清公は、おかみさんが気性悪くて、出しちゃあくれねえ。  お菊さん、留守なんだよ。 清吉を連れて、吉原へ行った。 お菊さんが帰っ て、それを知ると、烈火のごとく怒って、出てってくれ、となった。 清吉は 出ていき、桶職人なので、一人暮らしを始めた。

 もともと惚れ合って一緒になった二人だ、長屋の連中もいずれは元の鞘に収 まると思っていた。 ところが、お菊さんがポックリ死んだ。 清公に知らせ てやろうと、熊が出かけようとする。 けれど前に清公に会って、女郎買いの 一度や二度カカアに見つかって、四の五の言うようなら三行半をつきつけちゃ え、と言ったら、気弱な清公、飯もノドを通らねえって、橋の欄干につかまっ て泣いたんだ。 隠居が、ちょいとおいで、お上がんなさい、と。 熊さんや、 向うで清さんにどう切り出すつもりなんだ。 「お前のかみさん、死んじゃっ た」と言うんだ。 熊さん、仮にだよ、お前さんが仕事をしているところに、 誰か飛んで来て「お前のかみさん、死んじゃった」と、言ったら、どうなる。  わっちは一人者だもの。 仮にだよ、いいかい、一昨年、清さんが可愛がって いた猫が死んじゃった。 三日三晩、寝ついたじゃないか。 清さんに知らせ て、目を回して、気が狂うぐらいなら、いいよ。 ポックリ死んじゃったら、 お前さん、お白洲に引き出されて、はりつけ、晒し首だ。 どうしたら、いい かね。 充分足ならしをして、それから入ればいい。 遠回しに世間話をして、 心仕度ができたら、本題に切り込む。 俺は、そんな器用なことのできる人間 じゃない、隠居さん、代りに行ってくれないか。 私が行ったら、あの隠居が わざわざ来るんだ、大変な事が起ったとわかっちまう。 お前が何気なしに行 って、幼友達じゃないか、うすうす感づいたら、話してやればいい。 向うの 心持ちを、よく考えてな。 弱っちゃったな。 それで、長屋の連中は俺に押 しつけたんだ。 月番だとか、言って。 来ちゃった。 もう一回りして来よ う。