立川龍志の「義眼」2025/05/18 07:33

 龍志は、落語研究会でする噺ではない、と始めた。 難しい商売に医者がある、人命にかかわる。 落語は、間違えると、喜ばれる。 先代の小さんが言葉に詰まり、小さな声で「忘れた」と言って、受けた。 後で同じ所で詰まり、「本当に、忘れた」と。 間違いなんて、こんなもんだろっていう、感じがある。 医者は、大学も2年多い6年間学んで、国家試験を受け、インターンをやって、患者を診られるようになり、人を殺して、初めて一人前になる。

 昔は、でも医者というのがいた。 あいつも、医者にかからなかったら、助かったのに。 先生、竹に花が咲いて、枯れたんですが、どうしたらいいでしょう。 それは、植木屋に聞け。 先生は、藪医者だと聞いたもんで。 裏の医者、急いで来てくれって言われ、薬籠持って、飛び出して行ったんだが、その途中で、ウチの倅が足で蹴飛ばされた。 よかった、よかった、あの医者の手にかかっていたら、大変だった。 何でも、手遅れという医者がいる。 先生、この野郎、階段から落ちて。 手遅れだな、落ちる前に連れて来なければ駄目だ。

 ある男、大事なのは眼、だってんで、ずっと片目で生きてきた。 年を取って、新しい眼を開けたら、知ってる人が、誰もいなかった。 入れ目、義眼の具合はどうかな、ガタガタしたら来て下さい、セメントを入れますから。 鏡を貸して下さい、どちらが本物だか、わからない。 お休みになる時は、湯呑に水を入れてつけておくと、朝、入れる時に、ひんやりして気持がいいですから。 吉原に馴染の女がいるんですが、行ってもいいでしょうか。 毎晩でも、いい。 たまには、顔を出して下さい。

 馴染の女、前よりいい男になった気がする、と。 ばかな持て方。 隣には、振られた男。 月蝕女郎で、真っ暗闇。 隣は、宵の口から、ペチャクチャ喋っている。 そんなところを、さわっちゃあ、くすぐったいわよ。 静かになった。 紙をガサガサ。 済んだんだね。

 草履が、バタン、バタン、バタン、バタン! 来るかと思ったら、行っちゃった。 喉が渇いたな。 銭ばっかり取って、水もない。 下まで水飲みに行くか。 この部屋だな、あれがいい男か、鼻から提灯出して寝てやがら。 湯呑に水がいっぱい入ってる。 下まで行くの面倒くさいな。 ウッウッ、うまいね。 酔い覚めの水、千両と値が決まり。 なんか、生臭いな。 ウッウッ……、アッ、驚いた、この水、芯があるよ。

 この男、翌朝、通じがつかない。 十日経っても出ないので、奥さんと医者へ行く。 ドブが詰まると同じで、食べたものが肛門に詰まっている。 助かるでしょうか。 大丈夫、ドイツから輸入のアヌス眼鏡で、尻の中を覗く。 窓を閉めて。 苦しいです。 起き上がって、下帯を外して。 きまりが悪い。 きまり悪がる顔じゃない。 四つん這いになって、私に尻を向けて。 この毛むくじゃら、どうしたんです、山だったら、鉄砲で撃たれる。 尻を上げて。 これよりアヌス眼鏡を挿入します。 ダーーーッ! 半分ほど入った、屁をしないように。 入りました。 少々、お待ちを。

 先生、いきなり表に飛び出した。 表で待っていた奥さんに、驚きました! 私が御主人の尻の中を覗いたら、向うからも、誰かが見ておりましたから。