「ちきり伊勢屋」(中) ― 2007/01/08 08:22
三回に分けたさん喬の「ちきり伊勢屋」を、暮から正月にかけたこの時期に かけたのは、落語研究会のプロデューサーの失敗ではなかったか。 たしかに 噺と季節は合ってはいる。 だが、なにぶん噺が暗いのだ。 喬太郎の「橋の 婚礼」や権太楼の「御慶」を配しても、及ばないのだった。
ちきり伊勢屋の伝次郎は、施しが良い結果を生まないことを知る。 あと7 ヶ月、好きなことをなさったらどうでしょう、と番頭も言うので、伝次郎は、 今まで知らなかった酒、芸者遊び、吉原通いを始める。 幼馴染の清(せい) ちゃんに連れて行ってもらった吉原で、幇間の善平となじみになる。 秋の終 り、遊びに飽きて景色を眺めに行った待乳山の聖天様で、心中しようとする馬 喰町の洗張屋白木屋源右衛門と娘二人お鶴・お千代を助ける。 白木屋は、隣 から出た火事で類焼、客から預りの着物を焼き、金策も尽き、吉原に売ってく れという娘を連れて来たものの、それもならず心中しようとしたところだった。 伝次郎にもらった三百両で白木屋は立ち直り、新しい店も建ち、得意先も増え た。 正月、白木屋の様子を見に行った伝次郎は、酒と料理で歓待され、お鶴 と世間話をしたりして、そこへ通うようになる。
節分も近づいたその日は雪になった。 帰ろうとする伝次郎に、お鶴は「また来てくださいますね」と言う。 「あたしは、お鶴さん……」と、言いかけ る伝次郎。 (三味線の音がして)雪がしんしんと降っている。 暗い江戸の 町を二人は歩く。 「さっき何を言いかけたの」と尋ねるお鶴。 伝次郎は、 答えられずに帰っていく。 あとで伝次郎は幇間の善平に打ち明ける「生まれ て初めて好きになった、でも好きって言えないさ、もうひと月たてば死ぬ」。
白木屋が風邪で床につき、起き上がれなくなる。 「私はこの命をかけて、 あの人をお守りする」と言って、手を合わせ、息を引き取った。 梅がぽっつ んと咲いている、もうすぐ春がやって来る頃だった。 そんな恋愛話になった(中)が終わっても、2月15日正(しょう)午の刻にはならないのだった。
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