季題「夏料理」の周辺2010/07/15 06:54

 8日の「夏潮」渋谷句会では、「夏料理」の季題研究の当番だった。 別に説 明する必要もない、見たままの季題だから、「歳時記」をいくつか参照して、こ んな話をした。  虚子編『新歳時記』には「涼味を主とした味の軽い夏向きの料理をいふ」と あるだけで、例句もない。 しかし、夏の暑さを忘れるための「夏料理」のポ イントを二つ、しっかりと押えている。 《1》涼味、《2》味の軽さ、だ。 ほ かの「歳時記」で、くわしくみると、

 《1》涼味…(イ)見た目が涼しい。 (ロ)冷たくした(氷片を敷いたり して)。 (ハ)器や付け合わせに工夫。 (ニ)夏に旬を迎える野菜や魚介。

 《2》味の軽さ…さっぱり、口あたりのよい。

 具体的に、どんな料理があるのか。 「歳時記」で、「夏料理」の周辺にある ものを拾ってみた。 美味しそうなものが、いっぱいある。 その地域独特の 涼み方もあった。

「水飯(すいはん)」…茶漬に対して水漬ともいう。洗ひ飯。/「冷索麺(ひや そうめん)」…そうめん(最近は素麺と書く)は索麺(さくめん)の音便で、糸 のごとき麺の意。(兵庫県龍野の「揖保の糸」)/「冷麦」「冷し中華」「葛索麺」 /「冷奴」/「鮎鮨」…鮒鮨・鯖鮨・鯵鮨。普通の握鮨が夏の季感を失ってい るのに対し、明らかに夏季のもの。/「船料理(ふなりょうり)」…主として川 や堀割の多い大阪の風習。川などにもやった船の中で、おもに生きた魚を調理 して食べさせる。生簀船・船生洲・生洲料理。/「川床」(かはどこ・ゆか)、 「床涼み」(ゆかすずみ)夏七月、納涼のため川の流れに張り出して設けた床。 京都鴨川、洛北貴船川が有名。/「沖膾(おきなます)」…沖でとった生きた魚 を舟の上で料理して食べる。アジ・スズキ・イワシ・サヨリの類を、たたきに して、蓼や紫蘇をきざみ込み、二杯酢または酢味噌で食べる。/「洗膾(あら い)」…淡泊な夏の魚料理。コイ・スズキ・タイなど。洗ひ・洗鯉・洗鱸(すず き)・洗鯛。/「水貝(みずがい)」…岩牡蠣・栄螺(さざえ)・赤貝そのほか夏 は貝の生食に適しているが、鮑(あわび)をなまで食べる場合にかぎって水貝 という。/「冷汁(ひやじる)」…冷し汁・煮冷(びや)し・煮冷(ざま)し。 夏に味噌汁や澄し汁(清汁)などを器とともに冷やして、食膳に供するもの。 /その他、「胡瓜もみ」、「冷瓜」、「鱧の皮」、「晒鯨」、デザート類で「葛餅」、「葛 饅頭」(葛桜)、「葛練」(葛切)、「水羊羹」、「白玉」(氷白玉・白玉ぜんざい)、 「ゼリー」、「蜜豆」(餡蜜)

例句。 新しい季題かと思っていたら、其角の句があるのだった(意味はよ くわからないが)。

交りのさめてまたよし夏料理    宝井其角

杉箸を染むるは何ぞ夏料理     前田普羅

美しき緑走れり夏料理       星野立子

山を褒め川を称へて夏料理     黛 執

流れゆく水に声あり夏料理     角川春樹

夏料理川の杳きに灯を点し     赤尾恵以

帯ちらと葉がくれに去り夏料理   阿部みどり女