正蔵の「心眼」後半 ― 2015/07/24 06:48
今、目の前、飛んで行ったのは、何ですか? 人力だ。 そうか、お竹がい つも人力車に気を付けろって言っていた。 旦那、人力に乗ってた女の人、き れいな人でしたね。 目が早いね。 東京で一二の芸者衆だ。 つかぬことを お聞きしますが、今の芸者と、女房のお竹と、どちらがいい女ですか? よそ うよ、そんな話。 言って下さい。 お竹さんは、東京で一二を争う器量の悪 さ、人三化七というが、人無化十。 人無化十か、そんな女と一緒にいられま せんよね。 ふざけちゃあいけない、人は眉目より心だ、お竹さん、心根とい ったら、日本一だ。 寝るめも寝ずに賃仕事をして、お前さんを助けている。 人間、心根だ。 お竹さんはまずいが、梅喜さん、お前さんはいい男でね、山 の小春を知ってるだろ。 あの小春がね、按摩の梅喜さん、役者の菊五郎、福 助、家橘よりいい男だ、険もなければ、嫌味もない、と言っていた、小春、お 前さんに岡惚れしているぞ。
ここは仲見世、杖ついてわかる。 お堂に上がって、お参りしたことがない ので、旦那もおつきあい願います。 賽銭箱、いっぱいある、観音様、有難う ございました。 箱ん中に、人がいる。 姿見だよ。 これ、私ですか、いい 男ですね、旦那は、まずい面だ。
ちょいと、そこにいるのは梅喜さんかい。 そういう、あなたは? 山の小 春だよ。 きれいな人だ。 目が明いたんだってね、そこで上総屋の旦那さん に聞いた、一緒にご飯でも食べないかい。
富士下の待合。 お酒はもういいから、おまんまちょうだい。 これは? 味 噌吸いもん。 白身の魚ですね。 まぐろの刺身って、こんな色してんですか、 観音様の提灯と同じだ。 梅喜さん、目が明くと、一入いい男だね。 戻った ら、あいつのこと、叩き出してやろうと思ってるんです。 そうしたら、この 私を女房にしておくれでないかい。 一杯機嫌の調子高。
(両手で胸倉をつかんで)ちょいと、梅喜さん。 お前は、何だ。 あたし ゃ、お前の女房のお竹だ。 へっ、お竹、俺が悪かった。 苦しい、苦しい。 梅喜さん、梅喜さん。 今、呼んだのは、お前か。 ご飯の仕度をしてたら、 お前さんがあんまりうなされているから、飛んで来た。 これは夢だ、夢。 早 く仕度して、お参りに行くんだよ。 俺、信心、よした。 盲人ていうのは不 思議なものだな、寝ているうちだけは、よおく見える。
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