さん喬の「大山詣り」後半 ― 2015/07/11 06:31
明くる朝、また来年と講中一行は早立ち、江戸まで七里だ。 昨夜、女呼ん だら、八十五だぜ、介護するわけじゃない。 博打でさんざん、酒飲んで、グ ッーと寝た。 『山帰り』というやつだ。
昨夜は大変な騒ぎだったけど、この時期、半年分稼げるんだから。 お姉さ ん、蚊帳が出てます。 なんか入っているね。 あら、お姉さん、お坊さんよ。 本当だ、お梅さん、昨夜、お坊さんなんか、泊らなかったよ。 ウワバミの彫 り物、何とか講の片割れよ、あん時はマゲがあったけど、カツラよ。 イビキ かいて、ちょいと、起きて下さいよ、お坊さん。 アーア! タコ踊りよ。 エ ヘヘ。 ウフフ。 昨日は、よく飲んだ、何、笑ってるんだ。 楽でしょ、す っきりしましたね、カツラはどうなさったんですか。 なに、マゲが自慢だ。 ペタペタ、あっ、これが俺の頭か、丸坊主だ。 昨日、喧嘩しなかったか。 喧 嘩してました。 みんなは、旅立ったか、くやしいな。 ちきしょう、おぼえ ていろ。 酒を冷やで、握り飯に、手拭を一本、米屋被りにする。 駕籠を通 しで、江戸まで。
一行は、広重の金沢八景が一度、見てみたいってんで、能見堂という高台か ら海を見る。 景色の美しい、野島や烏帽子岩を眺めて、ワーーッと江戸へ。
熊さん一人で、今、帰った。 どうしたい、皆は? 山へ行った奴のかみさ んを、集めてくれ。 皆に集ってもらったのは、ほかでもない。 金沢八景の 景色はきれいだった。 中に烏帽子岩を見てみたいというのがいて、野島で船 頭を頼んだんだ。 船頭は断った、雲行きが怪しいと。 烏帽子岩を見るだけ だからと無理を言って、船を出した。 途中で大粒の雨になった。 立っちゃ いけない、水掻い出せ。 舟が引っくり返って、みんな海の中に放り出された。 一人消え、二人消え、みんな見えなくなった。
人の話し声で、目を覚ました。 浜で、見たことのない連中に取り囲まれて、 運よくお前さんだけ助かった、てんだ。 俺はそれを聞いて、海に身投げしよ うと思ったが、このことをお前たちに伝えなければならないと、思い直したん だ。 お前たちの亭主は、二度と帰って来ることはない。 ワーーッ、とかみ さん連中が泣き出した。
この人、千三つの熊さんてんだよ。 冗談も、ほどほどにしておくれ。 先 達さんのおかみさん、生き死にの冗談は言えない、その証拠に、話をしたら出 家して、皆の菩提を弔おうと思って、途中の寺で、得度してきた。 ほら、こ の通りだと、頭の手拭を取る。
ワーーッ、私は、井戸に飛び込んで、死ぬ、と、富公のかみさん。 そんな に思うなら、飾りを下ろして、生涯、富の菩提を弔ったら、どうだ。 あの人、 喜ぶかな。 俺が、喜ぶ。 俺が、やってやる。 兄さん、お願いします。 き れいな髪だなと、丸坊主にする。 お花さんは一番若いんだ、私も、私もとな って、みんな丸坊主にした。 百万遍が始まる、みんなで数珠持って、木魚を 叩く。
どっかで念仏上げているよ。 どこかと思ったら、熊んとこだ。 一人じゃ ないぞ、大勢だ。 尼さんばかりだ。 真ん中で、伏せ鉦叩いているの、熊に 似ているぞ。 熊がいるわけないが、熊だ。 さっき、駕籠で追い抜いてった、 垂れ下ろして、あれ、熊だったんだ。 茶箪笥の前にいるの、お前んとこのか みさんに、似ている。 かかあだ、吉公のかみさん、先達さんのかみさんもい るぞ。
さあさあ、みんな、亡者が戻って来たよ。 どうぞ、成仏を。 お前さん、 死んだんじゃないのかい、金沢の海で沈んで。 みんな、熊の野郎をやっちま え。 やめなさい。 先達さん、仕返しに、かみさん連中、みんな坊主にされ ちまったよ。 冬瓜舟が岸に着いたようだ、お山も無事に済んで、みんなお毛 がなくて、よかった、よかった。
最近のコメント