扇遊の「彌次郎」後半2016/01/07 06:33

 山を降りかけると、ボウーーッ、六尺はあろうかという大猪だ。 角立てて、 襲ってきた。 猪に角? 牙が角みたいに、見えたんだ。 松の木によじ登っ て、まつ安心。 が、松じゃなくて、竹だった。 てっぺんに登ると、しなっ てきた、念仏を唱える。 猪がぶつかって来た。 バン、バンと、竹がはじけ る。 猪は、鉄砲で撃たれたと思って、倒れた。 シシ乗りになると、猪が駆 け出したが、後ろ前に乗っていた。 マタグラに手をやって、シシの金を、金 しぼり。 バタン、キュウと、くたばった。 猪の腹を裂くと、赤ん坊が十六 匹、四四、十六。 生まれたてのくせに、父ちゃんの仇と、かかって来た。 金 しぼりにしたんだから、オスだろう? そこが畜生の浅ましさ。 すたこら逃 げ出した。

 麓で、鬨の声が上がる。 百姓体(てい)の男たちがやって来て、三間ぐら い手前で、バタバタと手を付く。 祝い酒を一献差し上げたい。 庄屋様の家 へ。 総檜造りの立派な家だ、右に二十五人、左に二十五人、五十人が扉を開 けて出迎える。 山海の珍味、「オオソレ山」はいい地酒だ。 庭には、紅梅、 白梅、あやめ、菖蒲、かきつばたの花が開き、見事なモミジ、全山紅葉、満月 がそれを照らし、雪が降って、蛍狩り。 田舎のぞろっぺが、そぞろ歩く。 ヘ ロリンシャン、ヘロリンシャン。 障子にツバつけて、覗くと、お清さん、お 嬢さんだ。 恩人の、あなた様にお話が…、あなた様の女房にして頂きたい。  修行中の身、断わった。 お嬢さん、懐剣出して、喉に当て、死ぬ覚悟だと。  今晩、私の部屋に来てほしい。 三十六計、逃げるが勝ち。

 目の前に、大きな川。 紀州の日高川。 五里霧中、船頭は、舟を出せない と。 大きな寺がある、貧窮山、困窮寺。 釣鐘の代りに、うっちゃった大き な水甕があったので、それを頭からかぶった。

 お嬢さん、後を追いかけて、ズンズンバタバタ、ズンバタバタ。 船頭に、 焦がれ死にしてしまうと言うと、飛び込んで、一尺ほどの蛇になった。 寺の 台所にあった大きな水甕を、七回り半巻いた。 一尺でそんなに巻けるのか?  女の一心で、伸びた。 だが、その蛇が溶けた。 不精な寺で、水甕のまわり にナメクジが一杯いたんだ。 頃合いはいいかと、水甕を持ち上げて、立った ところは、いい男で安珍。 安珍という山伏だ。 道理でホラを吹き通した。

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