柳家小もんの「粗忽の釘」 ― 2025/12/11 07:14
9日は、第691回の落語研究会だった。 小もんは、変わった人が多い、と始めた。 師匠の小里んは、浅草の生れ育ち、五千円のピン札に両替して来いと言われた。 両替して持って行くと、「ご苦労さん」と言って、その封筒をクシャクシャに握った。 アッ! と言うと、オッ! と気付いて、「もう一遍、替えて来てくれ」。
(羽織を脱ぎ)粗忽の小咄、貞吉、郵便局へ行って来てくれ。 はい、と用も聞かず、駆け出す。 行って来ました、別段変わりありません。 切手を買って来てもらいたかったんだよ。 早く言って下さいよ、ついでがあったから。
火事だ、半鐘を鳴らさなきゃ、と登る。 どっちの見当だ? 暗くて、見えない。 半鐘に、頭を突っ込んでいた。
二人、そそっかしい、のもある。 夫婦喧嘩よせ。 夫婦喧嘩なんか、やらない、やってない、独りもんだ。 カカア、出てけ! って、言っただろう。 聞き違いだ。 掃除してたら、あの野郎が入って来た。 ネズミか? 違う。 象か? 急に大きくしたな、猫より大きい。 犬か? そうだ、赤犬が入ってきやがって、馬糞をしやがった。 それで、この赤、出てけ! って、言ったんだ。 その犬、どうした? 逃げてった。 俺だったら、捕まえて、腹を割いて、熊の胆を取る。 バカ、鹿と間違えるな。
引越してきた夫婦、お前さん、休む前に箒をかける釘を打っておくれ。 長いのを。 わかってるよ、俺は大工だぞ。 トントントン、痛ェ! 右手の指を舐め、こっちだと言って、左手の指を舐める。 頭まで、打ち込んじゃった。 どこに? 壁に。 どんな釘? 八寸の瓦っ釘。 長屋の壁なんて、こんなに薄いんだよ、隣に行って謝っといで。 行くよ。 カカアは、いつもパアパア言う。
こんちは、つかぬことを伺いますが、壁から釘が出てないでしょうか。 薮から棒だね。 いえ、壁から釘で。 冗談じゃねえよ。 お向かいに越してきた、カカアが、釘かけるから箒を打てって、言うもんで。 逆でしょう。 お前さん、お向かいに越してきたんでしょう、ウチには釘は出ない。 そんなことはない、こんな長い釘だ。 どんな長い釘だって、路地が一本、間に挟まってる。 ン…、サヨナラ!
隣だ。 手前の所がどこかわからない。 こんちは……、ここか。 お前さん行って来たのかい。 お隣でなく、お向かいへ行っちゃった。 馬鹿だねえ、落ち着いて行きな、お前さん、落ち着きゃあ一人前なんだから。 少々うかがいますが…。 ちょっと、入らして下さい。 後を、お閉めになって。 ちょっと、上がらして下さい。 座布団を、おあてになって。 (おかみさんに向って)知らない人だよ。 落ち着かせて下さい。 煙草盆を。 お茶、淹れて上げなさい。 頂戴します。 いいお茶で、おかみさん、いい女で。 仲人があって一緒になったんですか、それともくっつき合いで。 仲人がいて一緒になった。 通りの角の伊勢屋という質屋、三軒間口の大きい店、ご存知でしょう。 知りません。 そうか、越して来る前の家だった。 うちのカカアは伊勢屋で行儀見習いをしていて、あっしは出入りの大工。 弁当つかってると、お茶を持って来て、ドンとぶつかってきたり、焼きジャケをくれたりした。 俺に惚れてるな、と思ったので、その晩、縁日にさそった。 腰巻を三枚買ってやったら、喜んだ。 遅くなったんで、お店に帰れないというから、家へ連れてきた。 台所で散らかってた洗い物を、洗ってくれている背中から、着物の八ツ口に手を入れて、コチョコチョとやった。 いやだって言うかと思ったら、脇の下が弱いと。 手を伸ばすと、アーーッ! それで、一緒になっちゃった、三年前。 尻に敷かれっぱなしが、家庭円満、ハハハハハ。(と、茶を飲む) お代わり頂戴して、失礼します。 何か、ご用で? 謝りに来たの、忘れてた。 隣に越して来たんですよ、釘の先が出てませんか? エッ、コチョコチョは、どうでもいい、どのへんで? 蜘蛛の巣のところを打った。 それじゃ、わからない。 ウチへ行ってきます。
お帰んなさい。 ここ、ここ! どこ? 指、差している。 駄目、見えない。 釘の頭をトントン、ここです。 仏壇がガタガタ。 大変だ、こっちへ来い。
立派な仏壇で。 阿弥陀様を見なさい。 阿弥陀様の首のところから、長い物が出ている、変わってるんですね。 お前さんの打った釘だよ、どうするんだ。 弱った、困ったね、明日から、ここに箒をかけに来なきゃあならない。

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