柳亭市馬の「二番煎じ」後半2025/12/14 07:30

 (羽織を脱いで)炭を贅沢についで。 扇がないように。 火がご馳走だ。 月番さん。 黒川先生、何です? 娘が、こんなもんを持たせてくれた、瓢箪に酒。 困りますね、火の番ですよ、何を考えているんです、先生は止めるようなお立場なのに。 土瓶をこっちへ持って来て。 先生の瓢箪の中のものを、土瓶に入れて。 火の上にかける。 どうなります? 燗がつきます。 酒は駄目だが、土瓶から出る煎じ薬なら、いい。 実は、私も、一升持ってきた、先生、生意気を言って、すみません。 私も、一升持ってきた。 私は、肴を、猪(しし)の肉を、竹の皮に包んで、葱を切って、味噌を添えて。 そんなことだろうと思って、私は、鍋を背負って来ました。 辰っつあん、いつもより猫背だと思って、気にしてたんだ。

 土瓶は、人肌になってきた。 辰っつあんは、鍋奉行で。 寒い所、ご苦労様でした。 湯呑で、頂戴します。 うまいね、喉にひろがっていく。 体の中から、温まっていく。 良い匂いだ。 お箸は、一膳しかない、回しっこしましょう。 どうぞ、一つ。 猪(しし)は、けっこうで、やったことがない。 騙されたと思って、やってごらんなさい。 チュル、チュル、長生きはしたいものだ、これが猪ですか、軟らかいものですな。 味噌と合うし、葱とも合って、家でもやりたい。 これは娘に買わせましょう。 有難い、美味い、こういうのに目がないんですよ。 箸、回せ。 ふた箸、やらせてよ。 今のは、葱ですよ。 いけませんよ。 宗助さん、心張りかって。 明日は、寄せ鍋にしませんか。 魚、鱈なんかいい。 北海道から届いた地酒が一升あります。 野菜、豆腐、箸を持って来る。 私はけっこう、素通りで、ぶら下がっているのを見てる、町内の一人として。 葱を頂きます、葱は血を清めるという。 アーー、よく煮えてて。 おかずにも、薬味にもよくて、朝昼晩、葱だけでいい。 アッ、ウン、ウン。 箸、取っちゃいなよ。 葱の間に、肉を挟んでやってるんじゃないか。 本当は、肉も好きで。

 いい色になったね。 心持よくなったら、一節やりましょう。 表に聞こえるといけないので、手拍子もなし。 ♪芝で生まれて、神田で育ち、今じゃ火消の纏持ち。 ヨーヨー! ヨーヨー!

 バン! バン! 横丁の赤犬ですよ、肉の匂いに寄って来たんでしょう。 ドン! バン! バン! シッ、シッ! 番の者、開けなさい。 役人さんだよ、月番さん。 湯呑は袂に。 鍋は、宗助さん、着物まくって、座っちゃいなさい。 何て顔だ。 フンドシにツユが滲みてきました。 開けちゃあ、駄目。

 お役目、ご苦労様です。 皆、回っておるか。 われわれは一の組、今、二の組が回っております。 先程、バン!バン!と言ったら、シッ、シッ!と申したのは、何か? この宗助さんが、犬が来たんじゃないかと言って。 土瓶のようなものを、片付けたようだが? 風邪の煎じ薬を、煎じておりました。 拙者も両三日中より風邪気味である、その煎じ薬とやらを、これへ出せ。

 皆、これをやっておったのか。 はい。 寒い折には何よりの煎じ薬じゃ。 もう一杯、つげ。  それから鍋のようなものが、あったようだが…。 宗助さんが、持ってきた、口直しで。 それを出せ。 まるっきり出所が悪い。 そちらをお向き下さい。 ツユっけが無い。 箸、一膳しかないので、これをどうぞ。 贅沢な口直しである、よう煮えておる。 宗助さん、ついでくれ。 煎じ薬といい、口直しといい、まことに結構なものだ、毎夜、持って参れよ、と飲む。 もう一杯、もう一杯、と。 ウワバミだよ。 煎じ薬が切れました。 では、拙者もう一回りして参るので、二番を煎じておけ。