雲助の「松曳き」2006/06/05 07:46

 五街道雲助の「松曳き」は、落語では粗忽と称する、いま話題の若年性アル ツハイマー問題を取り扱う。 殿様も、用人の田中三太夫も、その症状から見 れば、立派なアルツハイマー病である。 植木屋の八右衛門が風邪引きで、名 代で倅の八五郎が来ているのに、殿様は呼びかけるたびに、八三郎、八太郎、 八十郎となってしまう。 三太夫の所に、国表から早飛脚で書面が来る。 読 もうとするが、薄墨で読めない。 裏返しだった。 「御殿お姉上様ご死去」 とあって驚愕、殿様に人払いしてもらって言上するが、「何時何日(いついっか) のことか」訊かれて、分からない。

  詰め所に戻り、その手紙を懐に入れていたのを忘れて、さんざん探す。 よ うやく見つけて見れば「御貴殿お姉上様ご死去」だった。 「いさぎよく一服 して」というので、家来が煙草盆を差し出せば、「切腹を切る」であった。 「俎 板と包丁を持て」いや「九尺二間」のだという大騒ぎ。 殿様に正直に申し上 げれば、あるいは一命を落とさずに済む場合もあるかもしれないと、家来が諌 める。 だが殿様は激怒して、「目どおりかなわぬぞ、何という奴じゃ」と、切 腹を命ずる。 田中三太夫が、御前を下がろうとすると、「待て待て、切腹には 及ばぬぞ、よう考えたら、われには姉はなかった」

 雲助は、やり手の少ない噺だといった。 「粗忽の釘」にしろ、「粗忽の使者」 にしろ、爆笑になる噺だ。 これもやりようによっては、そうなるのではない か。 雲助の口跡と、一種の堅苦しさにも、難があったのかもしれない。