花緑のマクラと「厩火事」2007/09/08 07:07

落語家が客席で仲間の噺を聴くのはタブーなのだそうだ。 舞台の袖で聴く。  花緑は9歳で高座に上がったから、客席で落語を聴いた経験がない、という。  だから映画を観る。 と、この夏、ケータイで座席が予約できる六本木ヒルズ の3,000円のプレミア・スクリーン(リクライニング・シート、ワン・ドリン ク付)で、パートナーのきく姫と、ハリー・ポッターを観た時の出来事をマク ラにふった。 2階の待合室のふかふかのソファ、喫茶店のルノアールみたい なそれで、ほかに2組のカップルが待っていた。 ここのプログラムに文章を 書いている田中優子さんは、「東京には人がいないことになっている」と言う。  電車の中で化粧をしたり、そうしちゃあいけない所でモノを食べたり、飲んだ りする。 他人に干渉しないのは、都会に生きる知恵だ。 山に登ると「こん にちは」と挨拶するのに、麓では挨拶しない。 おじさんと若い女性の、見る からにわけありげなカップルの、その二十歳ぐらいの女性が突然「エーッ」と 空襲警報みたいな声を上げて、泣き出した。 ソファに倒れこんだ女性の足を、 年配の男がさすっている。 カツブシを削っているのに似ていた。 大声で泣 き出しても、係員が飛んでくるわけではないし、まわりの者も「どうしたんで すか」とか声をかけない。 上映時間になって、中に入ったけれど、くだんの カップルは入ってこない。 気になって仕方がない。 映画どころではない。  そんな夏だった。 それも、これも、みんな「縁(えん)」、周りから計り知れな い、いろいろな事情がある、と「厩火事」になる。

 毎日のように夫婦喧嘩の尻を持ち込むおさきさん、仲人をしたダンナに、「別 れたい」と相談に来る。 ダンナが、あっさり「縁がなかったんでしょ、わか れましょう。おしまい。」というもんだから、「それはそうですけど、ダンナ」 と亭主の肩を持っての、おさきさんのおしゃべりが始まる。 花緑の「厩火事」、 真打昇進の時より、数段の進歩と見た。