三三の「短命」2010/10/03 06:23

 三三はグリーン系統の着物に紫の羽織、メクリに出た前座の名前を紹 介する。 柳家おじさん、なるほどと思う眼鏡の顔、権太楼の弟子だそ うだ。 伊勢屋の旦那が三度死んだと言われて驚く隠居、よく訊けば、 美人で評判の、小町のような娘のところに来た三度目の婿が死んだとい う。 最初の婿はいい男だったが、来て二年もしない内に患って三月で 亡くなった。 次は色の黒い、丈夫そうな河豚みたいな顔の婿だったが、 一年半でコロッと逝った。 三番目、オシドリ夫婦というのか、とても 仲良くて、奥さんが旦那にご飯をよそうところを、庭の松の木に上がっ て仕事をしていて、ずっと見ていたことがあった。 その旦那が、ゆん べ、ぽっくり逝ったので、悔やみの文句を教えてもらいたい。

 最初の時は、「このたびは」まで言ったら、料理が並んでいるのが見え たので「ご馳走様」と言ってしまった。 二度目は、女房に尻をつねら れて憶えて「どうも、このたびは…。とんだことになりました。ご愁傷 様でございます」 「完璧だ」 「でも三度目だ、こないだの憶えてい るでしょう。同じでいいんですか」

 三十三は女の大厄というけれど、どうしてこうも続いて旦那が早死に するのか、わからない。 隠居は、番頭がしっかりもので、夫婦は店の ことで何もすることがない、奥の部屋には誰も来ない、朝からすること がなくて退屈だから、短命だ。 ご飯をよそう時にも、指と指が触れる だろう、そこに振るいつきたくなるようないい女がいるんだ、短命だろ う。 なかなか分からなかった植木屋も、仕舞には、触るのが指と指だ けじゃあない、上の方、下の方…、うらやましいような短命と、気付く。  度が過ぎればだ。

 笑いながら、家の前を素通りしそうになった植木屋、いつもは自分で よそうことに決められているご飯を、無理やり女房によそってもらう。  女房が茶碗でしゃくおうとするから、しゃもじを使わせるが、しゃもじ は自分で洗えと言われる。 その女房の顔を見て「おらぁ、長命だ」  例によって、ひょい、ひょいと下がった三三、順調な出来と見たが、 その持ち時間について、ある事実が後に判明する。