古今亭菊六の「あくび指南」 ― 2011/05/01 07:10
4月28日は、新年度の初回、第514回落語研究会だった。 定連席券がカ ードになったので、入口で切符切りのおネエさんが読み取り器でカードを「ピ ッ」とやる。 落語の会らしくない風景ではある。
「あくび指南」 古今亭 菊六
「おしくら」 柳家 三三
「厩火事」 柳亭 市馬
仲入
「人生が二度あれば」 春風亭 昇太
「中村仲蔵」 柳家 小満ん
古今亭菊六、頭を剃ったようなツルツルにし、薄鼠色の着物に、薄茶の袴と いう、さっぱりした「なり」で出て来た。 垂れ目である(学習院の出だとか)。 円菊の弟子だそうで、円菊の稽古は一筋縄ではいかない、という。 初めに「道 灌」を教わった。 「エーッ」とやると、「エーッ」じゃないだろう、「ウッ、 フッ、ウッ」だろう、と言う。 「ウッ、フッ、ウーッ」とやると、犬じゃな いんだから、と、やり直させ、それで1時間半ほどかかる。
お馴染みの「あくび指南」、菊六は女を出した。 あくび指南所の前を、乙な 年増が掃除していた。 てっきり、その年増が教えてくれるのだと思い、あら ためて、兄ィ(例の、お連れさん)に付いて来てもらって、習いに行く。 「ご めん下せぇーやし」と、やって、出て来た年増に、あっちは八五郎、二十八、 独り者だ、と余計なことまで言うのだ。 「少々、お待ちを」と言われて、爺 さんが出て来る。 「おまはんは?」と聞けば、「ケッシン斎チョウソク(?)」 とか名乗り、「あれは手前の家内」と。 「おまはんは、亭主野郎」。
「四季のあくび」の内「夏のあくび」を習う。 師匠が二度やって、もう一 度と言われ、菊六、もう一度やってもいいが、会場が暗い(節電で)と、あく びする方がいる、と笑わせる。 「お連れさんは、ご器用だ」のサゲで下りる 菊六、お能のような前屈みの姿勢で引っ込んだ。 菊六の「あくび指南」、前座 としては、なかなかのものだった。
三三の「おしくら」 ― 2011/05/02 07:00
三三、側頭部を刈上げ、紫の着物に黒の羽織、「お後、歌う副会長をお楽しみ に」と出て、すぐ羽織を脱いだ。 小田原の宿、八、熊、文の江戸っ子三人、 夜のお伽をするネエちゃんがいると馬子さん(孫さん?)に聞いた、鶴屋善兵 衛という宿屋を探すのだが、そろって字が読めない。 文公が病人のふりをし て倒れ、指し宿、常宿は鶴屋善兵衛だと言って、担ぎ込むことにして、泊ろう とする。 寄って来たのが、鶴屋の主、宿の真ん前で倒れたのだった。 おま んまが先か、お風呂が先か、と聞かれ、熊さんだけが風呂へ行く。
夜のお伽をするネエちゃん、できるだけ若えのをと頼むと、二人しかいない。 脇から一人呼べるけれど、年増で、耳を貸してくれ、と。 にわかには信じら れないような話。 八五郎と文公、熊におっつけよう、ということになる。 熊 さんが湯から帰り、湯に行く途中で、その年増が熊さんを見かけたことにする。 元は江戸の柳橋で芸者をしていたが、惚れた男と駆け落ちをした。 その男が ポックリ死んで、小田原でこういう暮しをしているのだが、熊さんがその男に 似ている。 湯に行く熊さんを見かけたら、身体が火照って、火照って、しよ うがない、ああいう人に出てみたい、と。 年増、年増、年増、色は年増に止 めを刺す。 離れの一番奥の部屋で、恥しいから布団にもぐっているから、と。
明くる朝、二人は稔りの多い一夜だったが、熊さんはとても機嫌が悪い。 知 ってて、やりやがったな。 離れの一番奥、布団に手を入れると、ヤカンが一 つあった。 ヤカンの下の方が、人の形になった。 ヤカンじゃなくて、アイ カタの頭、歳を聞いたら、八十六。 干からびたこけし、みたいだった。 脱 帽だ、旅の洒落じゃないか。
八五郎と文公は、ネエちゃん二人に、世話になったから、油でも買って頭に つけろ、髪は女の命だから、と祝儀をやる。 熊さん、お前もやりな。 俺は、 世話になんかならねえ、俺が世話をした、夜中に三遍、はばかりへ連れて行っ た。 そうだよな、おばあさん。 おーーい、と大きな声を出さないと、耳が 遠いから聞えない。 寿命はあっても、毛が一本もない。 油でも買って、お 灯明でも上げてくれ。
昔、志ん生が人形町の末広で、雨の降る、客もごく少ない、親しい間柄のよ うな感じのする日に、やったような咄だ。 TBSも録画はしたのだろうが、放 送は難しいかもしれぬ。
市馬の「厩火事」 ― 2011/05/03 06:29
縁は異なもの、と市馬は始めた。 出雲には、ぞろっぺな神様もいるらしく、 夫婦別れなんてことも起こる。 噺家のおかみさんになるのは、大変なバクチ だ。 師匠、先代小さんのおかみさん、弟子になる二年前に亡くなったのだが、 夫婦喧嘩がすごかったらしい。 小さんも、夜12時前に帰ってきたことがな かった。 おかみさんは、玄関で箒を持って立っていて、「モリオーッ!」とな る。 「何だ。この、くそったれカカア!」 「くそをたれないカカアがある か!」 二階で、取っ組み合いの喧嘩になる。 ドタンバタン、音が凄い。 最 後に、「キャーッ」と、男の声がして、静かになる。 翌朝、二人で普通に朝飯 を食べていた。 引きずらないのだ。
男と女が目に星をつくって、一緒になって、三日もすると、間違えたとなる。 「厩火事」、ご存知の噺である。 一緒になった晩から喧嘩し、毎日のように夫 婦喧嘩の尻を持ち込む髪結のお崎が、仲人をした旦那に、八っつあんと「別れ たい」と相談に来る。 話を聞いた旦那は、あの男はかばえない、この間、前 を通ると素通りはないでしょうと言うから上がると、お前が働いているのに、 昼間っからサシミにお銚子が一本のっている、今すぐ別れな、と。 お崎は、 旦那にそこまで言われることはない、私は七つも上、男盛りは長い、こっちは 歯が抜けて土手ばかりになって、土手で噛んでも痛くない。 鐘と太鼓でさが しても、こういう人はいない。 亭主の本心が知りたいだけだ、と。
旦那は、モロコシの孔子の「厩火事」と、麹町のサル旦那の話をして、試せ と言う。 モロコシといっても、お崎が醤油をつけた方が好きというのではな い。 孔子と言っても、松本、幸四…郎、高麗屋ではない、役者じゃなくて学 者。 孔子の厩には二頭の馬、白い馬といってもドブロクじゃない、ヒンコヒ ンコ、青に乗って役所へ。 『論語』「厩焚けたり。子、朝より退く。曰く、人 を傷えるかと。馬を問わず」
麹町のサル旦那は、階段から落ちた奥方より、瀬戸物のことを36ぺんも心 配して、離縁となり、生涯寂しく暮した。 食事もせずに、お崎を待っていた 八っつあん(市馬、その優しさをよく出した)が、大事にしている、1円60銭 のひびだらけの茶碗をこわす。 亭主は麹町のサルでなく、モロコシだった。 「当り前だよ。怪我でもしてみねえ、明日から遊んでて、酒が飲めねえ」
昇太の「人生が二度あれば」マクラ ― 2011/05/04 05:38
昇太、こう見えて「けっこう、おっさん」なんだという。 自分で、自分の ことが心配になる。 今後の人生をどうするか。 やり残したことが多すぎる。 同級生に会うと、見る影もなく傷んでいる。 子供の大学受験、娘のボーイフ レンド、結婚、就職なんて話題になる。 独身で、そんな経験がないから、芸 に幅が出ない。 落語が薄っぺらい、年輪を重ねることで磨かれて行っていな い。
それから、健康面の不安。 40代と50代は、全く違う。 普段はちゃらち ゃらしているものを着ているから、49と言うと、ヘェーッと驚かれた。 若く 見えるのが自慢だった。 それが50と言うと、エーッ、気持悪いと、ドン引 きになる。 朝ご飯を食べるようになった。 自分で作る。 薬を飲まないと、 いけないから。 医者が血圧が高いから、こんなこと(両手を挙げてOをつく る)をやると、キューッとなる(死ぬ恰好)という。 その先生、一度も私の 高座を見たことがないのに、Oとやるのをわかっていた。 周りには、夏場に 死ぬな、冬場に死ねと言われている。 傷みが早いから。
あの時、結婚しとけばよかった、というのはある。 年賀状なんかが来て、 家庭を持っていたりする、あの時、行っときゃーよかった。 師匠も、もっと 落語を勉強しとけばよかった、と舌足らずで、言っていた。 米丸が売れてい て、失敗すればいいと思って、沢山酒を飲ませたことがある、と。
昇太の「人生が二度あれば」本体 ― 2011/05/05 06:20
過去を振り返ることが、時々ある。 年寄が泣いている。 ワシは今、何で 泣いていたんだ。 若い時は走って15分だった駅まで、今は2時間半かかる。 走ってみようかな、よーいドン。 ハアー、ハアー、死んでしまうかな。 20 メートル位しか、進んでいない。 手先を使うと、長生きするという。 何に でも興味を持つこともよいという。 蟻がいる。 蟻はどこへ行くんだろう、 つけてみようかな。 子供たち、ついて来るな。 新聞でも読むか。 芸能欄、 「春風亭昇太さん、人間国宝」、世も末だなあ。 盆栽でもいじるか。 一番最 初に買った盆栽だ。 パチン、パチン(扇子を鋏にして、枝を切る)、時々古典 落語の手法も使わないと、新作を馬鹿にする人がいる。
転勤した時、いつも行く店のお千代さんが、見送りに来てくれた。 窓の向 うだから聞えなかったけれど「待ってェー、行かないでェー」と、叫んだのか なあ。 お千代さんは、きれいだったから、一緒になったら幸せだったろう。 今のウチの婆さん、何の生き物かわからない。
子供の頃は、楽しかったなあ。 広場で遊ぶのが楽しかった。 人生が二度 あればなあ。 親の死に目にも、会えなかった。 出掛けに、柱に足の小指を ぶつけた。 母さん! 間に合わなくて、財産は兄弟がみんな持って行った。 「チェース! チェース!」白い煙が立って、「昔に戻してやろうか、松ぼっ くりを噛むと、戻る」というのが現れる。 お千代さんに会いたい。 白い前 掛けが可愛かった、と思っていたけど、今はそうでもないな。 叫んでるな、 補聴器、補聴器。 「ツケだけは、払って行ってェー」
子供の頃は、楽しかった。 広場で「ワーイ、ワーイ」(と、棒っきれを振り 回す)、「ワーイ、ワーイ」、つまらん。 母さんの死に目に、間に合った、大丈 夫だ。 「お前、よく来てくれたね、伝えなければならないことがある。財産 はお前には一銭もやれぬ。お前は父さんの子供じゃあない」 ワシは、一体、何で泣いているんだろう。
落語研究会の新作落語、2月の志の輔「みどりの窓口」がよかったので、昇 太もということになったのだろうが、物語の展開も、面白さも、今一だった。 このまま、50代、60代をやっていくのか。 マクラで自らが述べたように、 将来に不安を感じさせた。
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