パンを二人で分け合う幸せ2012/03/04 04:43

 映画『しあわせのパン』に出て来るパンも料理も、なんとも美味しそうだ。

 夏の客は、沖縄旅行を彼氏にすっぽかされた東京のOL(デパート勤務?)カオ リ(森カンナ)と、地元の鉄道で働き北海道を出られないトキオ(平岡祐太)。 湖 を望むテラスで、サプライズのカオリ誕生日祝いでは、クグロフというフラン スやオーストリアのクリスマスに欠かせないドライフルーツや木の実入りのケ ーキのようなパン、夏野菜のバーニャカウダ、なすとズッキーニのラザニア。 

 秋の客は、バス停で佇んでいた少女未久(八木優希)と、未久のパパ(光石研)。  「あったかいごはん、作ってます。お腹が空いたら来てください。マーニ」と いう手紙をもらって、来店。 家を出て行ったママの得意料理だった、かぼち ゃのポタージュ。 ユリネときのこの小さなコロッケ、目玉焼きのココット、 ブロッコリーとカリフラワーのチーズ焼きを、ワンプレートに。 常連阿部さ んの、中身が謎のトランクには、アコーディオンが入っていた。 みんなが温 かい気分になった、その演奏のお礼は、林檎のはちみつパン。 阿部さんは「私 は辛党なんですよ」と言いながら、それを美味しそうに食べ、「今夜はワインも」 と言う。 秋は栗のパンもある。 生栗を皮のついたまま半分にしてオーブン で焼いて、粗くつぶし、パン生地でつつんで焼き上げる。

 冬の客は、阪神大震災で風呂屋と娘を失い、思い出の月浦に死ぬためにやっ て来た史生(ふみお・中村嘉葎雄)とアヤ(渡辺美佐子)。 パンは食べられないと、 ご飯を炊いてもらったアヤだったが、小豆と青えんどう豆を使った豆の白パン を食べてみて、「おいしい。お父さん…私、明日もこのパン食べたいなぁ」と元 気になる。 じゃがいものラクレットチーズがけ、ローストチキンのローズマ リーのせ、スペインオムレツ、そして根っこの冬野菜のポトフは、人参、玉葱、 じゃがいも、結わいた肉を、ストーブにかけたダッチオーブンでコトコト煮込 んだもの。

 この映画で、繰り返し描かれるのは、パンを二人で分け合うシーンだ。 焼 き立てのパンを手で半分に割ると、ふわりと湯気が立ちのぼる。 笑顔になっ た二人が顔を見合わせる。 歳を取ると出来なくなることばかり、なのではな く、「最後の最後まで、変化し続ける」自分を信じて、明日を生きていく。 パ ンを分け合える、大切な誰かと一緒に。 映画のその主題のシンボルが、カン パーニュという大きなパンだ。 「はい」とか「そうです」、日頃の饒舌とは違 う水縞くんの大泉洋が、「カンパーニュ」は仲間 (カンパニオ)だと、珍しく説 明する。

  「一人じゃなかったらできますよ。誰かと一緒にだと、できることがあるん ですよ」

 夕飯に私はご飯を、家内は帰りにASANOYAで買った「カンパーニュ」を食 べていた。 私は「ちょっと、ちぎってよ」と、つい言ったのであった。