「紫雲英」と「春雷」の句会 ― 2012/03/25 04:48
3月8日に、渋谷句会があった。 兼題は「紫雲英(げんげ)」と「春雷」だ った。 紫雲英というのは、蓮華草(レンゲソウ)のことである。 8日の句会 の話が今頃になったのは、日本の近代化について考えていたせいもあるが、鳴 かず飛ばずだったからでもある。 七句出して、主宰選はゼロ、互選の一票し か入らず、昨年後半に「まずまず」が続いていたのが、一度にペシャンとなっ てしまった。 大河ドラマではないが、「驕る平家は久しからず」。 「失敗学」 のならい、遅ればせながら、失敗の見本をお目にかけよう。 暗闇に一筋の光、 救われた貴重な一票は〈春雷や芝生に青きもの出て〉に入った。 耕一さん、 いい人だ。
げんげ冠幼馴染に尻敷かれ
アルプスの白き峰々げんげ刈る
げんげ野を軽トラの来て過ぎて行く
春雷にやうやく梅も目を覚まし
春雷や芝生に青きもの出て
春雷や地震の音と聞き惑ふ
奥鬼怒の宿の厠で春の雷
私が選句したのは、つぎの七句だった。
紫雲英田に天地返しの日の近し 梓渕
近寄りて紫雲英田の色薄まりぬ 梓渕
丘低く連らなる上総蓮華草 梓渕
げんげんや養蜂一家やつて来る さえ
紫雲英野の尽くる辺りや塔の見ゆ 良
目醒めゐてかはたれどきや春の雷 英
春雷のぴしりと一つそれつきり 梓渕
梓渕さんの句を四句も採って、結果的に梓渕さんの「いい人」になっていた。 さえさんの「養蜂一家」は、主宰選の評で「一家」というと漠然としているか ら、具体的なものにしたほうがよいのではないかとの指摘があり、「養蜂トラッ ク」としていた。 ほかに人気のあった句を掲げておく。 皆さん、お上手で ある。 反省しきりの会となった。
どの駅で下りやう紫雲英花盛り 英
預かりし子が母に摘む蓮華草 なな
げんげ野に跼める吾子に空広し 和子
ホームから紫雲英田村を一望す やすし
げんげ田に養蜂箱を真中に 松子
紫雲英咲く畔道を過ぎ祖母の墓 善兵衛
春雷や小三治今日も小気味よく ひろし
春雷の一つとどろく沖のかた 良
春雷の過ぎて去り空翔る雲 幸雄
初なればなにやら嬉し雷も 耕一
三年間『銀の匙』だけを読む授業<等々力短信 第1033号 2012. 3.25.> ― 2012/03/25 04:52
NHK・BSプレミアムの「週刊ブックレビュー」、17日が最終回だった。 ま ことに残念である。 1991年4月の放送開始から20年、けっこう見ていて、 この番組で知り、短信で紹介した本も何冊かある。 歴代の司会者では、如月 小春、児玉清、星野知子、三舩優子、そして最後まで務めた藤沢周、中江有里 の皆さんが印象に残っている。 この本は、1月28日放送の第947号で、幸 田文の孫、青木奈緒さんが薦めていた。
伊藤氏貴著『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち』(小学館)、「伝 説の灘校国語教師・橋本武の流儀」。 昭和9年、開校間もない神戸の私立灘 中学校・高等学校に赴任した橋本武さん(100)は、50年間教壇に立ち続けた。 「エチさん」はエチオピア皇太子似から付いたあだ名。 戦後、教科書を使わ ず、中勘助の岩波文庫『銀の匙』一冊だけを3年間かけて読み込む、型破りの 授業を始める。 「一学年200人・一教科一担任の6年一貫繰り上がり制」と いう灘校独特のシステムが、それを可能にした。
『銀の匙』前篇の十三節、主人公が駄菓子屋へ行く場面。 橋本武先生は、 ニャッとして皆に小袋を配る。 いろいろな駄菓子が出てくる。 生徒が自分 から興味を起して入り込んでいくためには、「主人公になりきって読んで行くこ と」が大事だと、授業はしばしば脱線する。 「わからないことは全くない」 領域まで、一冊を徹底的に味わい尽す「遅読(スロウ・リーディング)」「味読」。 『銀の匙』には、日本の年中行事や細かな季節の移ろいを感じられるものが、 たくさん出て来る。 凧揚げの話が出れば、美術教師に頼んで、「一日凧職人」 の「総合学習」だ。 どんな凧をつくるか、骨から作る材料や形・絵柄も、す べてが自由。 そして、凧揚げ大会だ。 「丑紅」という言葉から、寒の丑の 日に売る紅で、口中の荒れを防ぐという意味をプリントで解説し、「十二支」「十 干」、干支の話に脱線していく。 「丑紅」から身近な「甲子園球場」に広がっ た話は、12歳の知的好奇心を刺激する。 毎回配られるガリ版刷りのプリント に、節ごとの「内容」をまとめ、「鑑賞」に自分が美しいと思った文章を書き抜 き、「短文練習」する。 一年分をまとめて、索引をつくり、製本した『銀の匙』 研究ノートは、エチ先生の教え子たち一人一人の宝物だ。 エチ教室が幾多の 俊英を産んだ実例も紹介されている。
私は、転校後もプリントを送ってもらい、72歳で送った中勘助論に、97歳 の先生から三重丸をもらった楫西雄介さんの挿話が好きだ。 横道への脱線ば かりの雑学読書と短信・小人閑居日記の生活に、花丸をもらったようで、嬉し くなった。
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