小満んの「奈良名所」2012/05/03 02:32

 この噺、もともとは上方落語「伊勢参宮神乃賑」、通称「東の旅」の冒頭部分 らしい。 小満んは「旅のお噂です」と入って、春の旅が一番いい、日が永く なり、のどかだ、明るい若葉の山を「山笑ふ」という、〈山一つ笑いはじめの川 の音〉。 三人旅は一人乞食といい、二人でしゃべっていると、一人除け者にな る。 ちょうもく(丁目?=偶数)の方がいい。 江戸っ子は意気地がない、 箱根の山を見て、帰ってきちゃった。 反り返って来たので、と、だらしがな い。

 江戸っ子の二人連れ、京大坂を見物して、奈良大和まで足を伸ばした。 玉 造に桝屋、鶴屋の二軒茶屋、笠を買うなら深江、の深江を通り、馬が嫌がるほ ど険しい暗(くらがり)峠へ。 〈菊の香にくらがり登る節句かな〉と芭蕉が 詠んだ。 〈菊の香やならには古き仏達〉重陽の節句に奈良を出て、大坂で病 んで、辞世の句〈旅に病んで夢は枯野をかけ廻る〉を詠んで亡くなるひと月前 の句だ。

 尼ケ辻、二つに分かれる追分、右 大和郡山、左 南都奈良。 前に一行、松 笠の行列だ、○にア、阿波の百人講、太太(だいだい)講だろう。 菜の花に、 蓮華が咲いている。 〈連山に帯を結びし春霞〉 足が重そうだな。 昼飯が 軽かったから。 ときにラハがヤマキタ (北山(きたやま)=空腹)だ。 ラハ は、引っくり返して腹、ビクは首、チクは口だ。 メは? メは駄目だ。 ハ は? 二文字でなきゃあ駄目だ。 じゃあ、ミミは? モモ、チチ、ホホは?

 奈良の宿屋町だ。 うるさい客引きに、定宿がある、と断る。 二度と同じ 器では、飯を食わせねえ定宿だ。 失礼をば致しました。 定宿はどちらで?  インバイヤ…、インバンヤ・シュウエモンだ。 手前どもがインバンヤで。

 私が名所めぐりの案内人です。 ここが興福寺。 南円堂、西国三十三所九 番目の札所、三作の塚、三作という小僧が習字の半紙を食べた鹿を追い払おう と文鎮を投げたら死んでしまい、石子詰の刑に処せられたという。 八重桜は 奈良にしかなかったと申します。 〈いにしへの奈良の都の八重桜今日九重に 匂ひぬるかな〉 ここが東大寺。 南大門、両側の阿吽の仁王様、運慶、快慶、 湛慶がつくった金剛力士立像をご覧下さい、ここが大仏殿、大仏様、金銅盧舎 那仏座像、大きいでしょう、笠を被った人が鼻の穴に入ろうとして、笠が鼻に かかって落ちたという。 ここが鐘楼、梵鐘は大仏開眼と同じ天平勝宝四年の 作、いっぺん撞いて二十四文、一両ですって、大きな、つりがねえ。 こちら が二月堂で、二月にお水取りが行われる。 芭蕉の句に〈水とりや氷(こもり?) の僧の沓(くつ)の音〉 ここが東大寺の鎮守、手向山八幡宮、菅原道真が〈こ のたびは幣もとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに〉と詠んだところ。 若 草山、三笠山です。 遣唐使・阿倍仲麻呂の望郷の歌〈天の原ふりさけみれば 春日なる三笠山に出でし月かも〉で名高い。 春日さん、春日神社、その灯籠 の数と、鹿の数をよんだら長者になると言われている。 灯籠と鹿と、同じ数 だというが、しかとわからぬ。 奈良では放してある鹿を可愛がっている。 放 してある鹿、はなしか、噺家を可愛がっている。 ここが猿沢の池、ずいぶん 回って、皆さんもくたびれたろうが、案内人の私もくたびれた、はい、さよう なら。

 それをくどくどと書いた私も、くたびれた。

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