私の城下町俳句「海坂」 ― 2014/01/01 07:04
明けましておめでとうございます。 今年も吉例となった俳誌『夏潮』一月 号の親潮賞応募作を、初笑いのタネにご覧いただくことに…。 もちろん、受 賞とは縁遠い末席、三句紹介組だ。 タイトルは「海坂」、父のルーツの地は山 形県庄内地方の鶴岡、藤沢周平の海坂藩の城下町である。 幼時、お城のあっ た「公園地」に近い家中新町で、魚屋を営んでいた伯父のところに滞在して、 よく周辺へ遊びに連れて行ってもらった。 「海坂」は、周平が所属した俳誌 の名だったとか聞く。
鳥海の雪が潤す平野かな
雪解けて商家三男聟に取る
海の幸育む御山雪解水
文は人なり樗牛碑に花の散る
巡業のオープン戦に人の列
箱眼鏡覗いて占める河鹿かな
異形数多海月怪しく光りをり
炎天に雪切り出して売りに来る
殿様に側室をりし蟬しぐれ
田ん圃ゥの畦で肥えたるだだちや豆
敬老日おばこ来るかと唄ひをり
海坂を越え蓑笠の神迎ふ
もろもろの縁を結ぶ今年米
ハンドルを回せば香る胡麻油
柏戸の出し在方の村相撲
御城下の小川の辺り出羽の月
解き方を毎度迷ふや笹団子
機織の工場重役旧士族
竹の春一人住居の家老刀自
粕漬は伯父の自慢の鮭小鯛
柳家おじさん改メさん光「ん廻し」 ― 2014/01/02 07:13
12月25日、クリスマスは第546回の落語研究会。 なぜかこの会、イブや クリスマス当日に重なることが多くて、我家ではまことに評判が悪い。 友人 の席が一つ空いていたので、小三治も出ることだしと、三人に声をかけたが、 みんな予定があった。
「ん廻し」 柳家おじさん改メ 柳家 さん光
「猫怪談」 柳亭 左龍
「穴どろ」 柳家 小満ん
仲入
「匙かげん」 入船亭 扇辰
「やかんなめ」 柳家 小三治
座布団を運んでいた柳家おじさん、11月二ッ目昇進で、師匠権太楼の二ッ目 名前さん光を継いだという。 いっぱいの拍手に、拍手をもらうと、涙が出そ うになる、と抑える。 二ッ目に昇進すると、四か所の寄席の師匠連中になぜ かスーツで挨拶に行くことになっている。 買いに行った。 AOKIという店、 スーツが1890円というので、早速買った。 それだけじゃいけないと、ワイ シャツを買ったら、2500円だった。 不思議なAOKIだ。(と、羽織を脱ぐ)
みんなで、陽気にこんなことをしよう。 (指をおちょこにして)一杯飲む 真似をする。 (指を曲げて)泥棒か? 銭、大きいのはない。 細かいのはあ るのか。 あると、いいな。 今、持ってない奴、ウチにあるといいな、銀行 に預けてあるといいな。 みんな金はない。 言い出したのが、三升ばかり酒 を用意してある、こんだけ銭もある、誰か横丁の豆腐屋で木の芽田楽を買って 来てくれ、と。
買って来た。 味噌の焦げるいい匂い。 手を出すな、ただ食わさねえ、隠 し芸の見せっこをしよう。 芸をやった者が、一本食べる。
一番最初に手を上げた六ちゃん、帯を解く、着物を脱ぎ、長襦袢をポイ、両 手を上げる。 何だ? 隠し毛の見せっこでしょ、毛深い。 バカ! 銀ちゃ んは踊り。 五年間、お師匠さんに通っていたというが、ぜんぜん駄目。 次 の手品も、手拭から石や、ハサミを出す。 お前、それジャンケンだ。
「ん廻し」をやろう、縁起のいい「ん」の字で、田楽一つ。 ハイ、六ちゃ ん。 「ん、ん、ん、ん、ん、五本くれ」。 ダメ。 はい、「りんご」。 いい ね、一本。 「みかん」。 持ってきな。 「にんじん」。 二本だ。 皆さん、 待って下さい。 六ちゃん。 「トマト、キャベツ、きゅうり」で三本。 駄 目だ、「ん」の字がない。 「トマトちゃん、キャベツちゃん、きゅうりちゃん」。 身の上で一つ、「前科三犯」。 三本。 「オン馬が三匹、ヒンヒンヒン」 五 本。 「ワンタンメンてなんでんねん」。 六本。 きれいに「新婚さん新幹線 三番線」。 九本。 ♪「雪のつづく……、「アンパンマン」の歌」歌う。 十 三本。 ソロバン出して……、「ズッドーン、パパンパンパン、パパンパンパン、 パパンパンパン、パパンパンパン……、ズッドーン、プシューン」。 わかんな い、何それ? 打ち上げ花火よ。 川崎の竹屋の店先に落ちて、竹に火がつい て撥ねる音。 プシューンは、川に落ちた音。 今日のところは、百二十六本 にまけとくよ。 何で、私のだけ味噌がついてないの? お前のやったのは、 火事だけに、焼かずにおこう。
さん光、二ッ目なり立てにしては、とてもよかったと思う。
柳亭左龍の「猫怪談」前半 ― 2014/01/03 07:30
「しきたり」というものがある。 仏様の胸の上に刃物をのせるのも、その 一つ。 江戸の頃に始まり東京に伝わった、魔除けの意味があるという。 「犬 は人につく、猫は家につく」と言う。 主(あるじ)が死ぬと、そこの家に猫 がいるか調べる。 猫が悪さをするからだ。 仏様がある間、猫は預かっても らうか、紐でつないでおく。 あるいは仏様の胸の上に刃物を置いておけば、 そばに寄らない。 それがいつの間にか、猫がいてもいなくても、置いておく ようになった。
大家さんが与太郎の所へ、お父っつあんの具合を聞きに来る。 食べるか、 食べねえと、力がつかないぞ。 食べねえ、面倒くせえらしい。 今日もダメ、 話をするのも、息をするのも面倒くせえらしい、息を止めてらあ。 なくなっ たんじゃないのか。 そこにいるよ。 とうとう、亡くなったか。 与太、邪 険にすると罰が当たるぞ。 このお父っつあんは、お前の本当のお父っつあん じゃない。 産みの父母が流行り病で亡くなり、役人が戸を閉めて釘で板を打 ちつけた。 ちゃんよ、おっかあよ、と泣いているお前を拾って育ててくれた のが、このお父っつあんだ。 独り者で、仕事にもお前を背負って行った。 生 涯、かみさんも持たずに、バカといじめられるお前を育ててくれた、このお父 っつあんの恩を忘れるな。 大家さんは面白れえな、なんか言うたびに、鼻の 穴が広がり、白毛が飛び出す、十三回まで数えた。 ここに置いとくと金がか かるから、寺へ運ぼう、今月の月番に頼んで来い。 寺はどこだ。 どこでも いい。 そうはいかない、お父っつあんとお参りに行っていただろう。 どこ だっけ、ヨナカかな。 谷中か、谷中っていっても広いよ。 リンノウ寺って、 いったかな。 お通夜、馬鹿だけれどよく看病して親孝行だというので、香典 も集まる。 早桶は? あるよ、拾って来た、井戸端に落ちていた、印が山に 三。 それはウチ(大家)の印だ、漬物の樽だ。 空いたら、返すよ。
大家がついて、月番の吉兵衛が先棒、与太郎が後棒をかつぎ、夜晩く深川の 蛤(はまぐり)町を出て、厩橋から上野広小路のいとう松坂(松坂屋の前身) の前を通って、池之端へ。 サクサクサクと、三人が霜柱を踏んで行く。 与 太さん。 何だい。 さみしいね。 当り前だ、夜中だもの。 今、何ン時か。 さっき鐘が鳴った、八ツ(午前2時)の鐘だ。 怖がる吉兵衛に、与太郎が言 う。 お父っつあんは義理堅いから、吉兵衛さん、ありがとうと、早桶から手 を出して、お前さんの首をツツツツツ……。 驚いた吉兵衛、座り込んで、尻 餅をつく。 その途端、早桶の底が抜けた。 仏様が飛び出してる、タガがゆ るんじゃったんだ。
柳亭左龍の「猫怪談」後半 ― 2014/01/04 06:53
仏様が飛び出してる、タガがゆるんじゃったんだ。 早桶を何とかしなけり ゃあ、稲荷町に行けばあるだろう。 大家が行くので、二人で番をしていろと いうと、吉兵衛も一緒に連れて行ってくれ、と頼む。 与太は、あたい一人で も寂しくないよ、お父っつあんと留守番しているよ。 提灯を置いていってや ろう。 光はいらないよ、二人で夕涼みしているから。 真冬だぞ。 夏の夢 を見てる、いいから行っといで、手をつないで、喧嘩しないように。
お父っつあん、何で死んだんだ、あたい一人ぼっちにして…、いつも半人前 って言っていたから、半人ぼっちか。 あたいは、お父っつあんに世話になっ たから、うまい物いっぱい食わしてやろうと思っていたのに、死んじゃっちゃ あ食わせられない。 お父っつあん、何で死んだんだ、ねえ、お父っつあん。
胸元の刃物は、どこかに飛んでってしまっていた。 はるか遠くを、黒い物 が、スーーッと走った。 仏様が、ビクビクッと、動き始めた。 お父っつあ ん、寒いのか、布団はねえぞ。 目を明けて、与太の前に起き上がり、ちょん と座る。 お父っつあん、生き返ったのか。 与太の顔を見て、ヘヘヘヘ、と 笑う。 驚いた与太が、バチッっと横面を叩くと、起き上がり、今度は宙に上 がったり下がったり、両手を振って踊る。 お父っつあん、上手だ上手だ。 ま た倒れた。 お父っつあん、何か言いてえことがあったのか、もう一回ビクつ いておくれ。 しばらくして、またビクビクッとすると、一陣の風が吹いて、 目の前から上野の山の方へビューーンと飛んで行った。 割に元気だな、お父 っつあん。
大家と吉兵衛が戻ると、仏様がない。 お父っつあん、起き上がって笑うん で、張り倒したら、踊りを踊ったので、上手だ上手だと、誉めたんだ。 スス スス、スと、夜遊びに行っちゃった。 聞いたか、吉兵衛さん。 聞きました。 悪い猫が、悪さをしたんだ。 吉兵衛は、また腰を抜かしていた。
このホトケ、翌日、根津七軒町の質屋の折れ釘にぶら下がっていた、という 谷中七不思議の一つ、猫怪談の一席でございます。
小満んの「穴どろ」前半 ― 2014/01/05 06:40
山崎方代という歌人が面白い、「首のない男が山を下るときすでにみぞれは雪 にかわれり」「足もとの紙幣をだまって拾い取り皺を延しておいとまをする」。 昔は節季払いといって、盆暮は勘定を待ってくれない。 人間、普段が肝心だ。 今、帰った。 どこをノソノソ歩いて来たんだい、算段はついたのかい。 具 合が悪い。 手ぶらかい、三円もあれば、ご飯にパラパラごま塩かけても、何 とかなるのに。 お店に行ったんだ、番頭が、どの面(つら)下げて来たんだ、 と言った。 頭(かしら)の所へ回った、三円貸してやる、こないだの五円を 持って来たら、て言うんだ。 小池さんは、先月なら何とかなったのに、と。 あんた、男かい、生きている甲斐がないね、豆腐の角に頭ぶつけて死んじまい な、消えてなくなれ。 ケムじゃないよ、金をこしらえてきたら、どうする。 手をついて謝る、天井裏を這いずり回る、でも、こしらえないと家に入れない よ、このイクジナシ。
両国橋の百本杭まで来た、釣りをしているな、ダボ鯊に同情するよ。 本所 あたりをブラブラ、風に吹かれると腹が減る。 「オーイナリサン!」 腹に 響くよ、誰か買ってくれないかな。 三円、三円。 大きな立派な家だ、蔵が 二つもある、金がうなっているんだろうな。 松どん、急いで急いで、遊びに 行こう。 戸を開けたまま、行っちゃったよ。 戸がパタパタあおってる。 大 きな家だなあ。 裏の切戸が開けっぱなしですよ。 あれ、雨戸が一つ開いて る、あそこから出て行ったんだな。 灯りがもれている、上がってみようかし ら。 長い廊下だ、つきあたりが襖、十畳ぐらいの部屋で、飲み食いをしたと みえ、大鉢に煮しめ、大皿に刺身、鯛の塩焼があり、目出度いことでもあって 一杯飲んだんだろう。 腹、減ったな。 ちょいとお知らせに上がったんです が。 酒が入っているよ、この湯呑でやろう、冷たいけど有難い。 これは、 まるっきり入っているぞ。 この家でご馳走になるとは思わなかったな。 箸 を拝借、刺身を食おう。 色が変っちゃあ、しようがないから。
いい心持ちになってきたな。 「酒飲めばいつか心も春めいて借金取もうぐ いすの声」。 三円、お気の毒だ、三円差上げましょう、なんていう人がいない かな。 カカアが憎らしい、あの顔は木彫りの鬼だ。 謝らせてやりたいな。 カカア、あんなんじゃなかったんだよ。 嫁に来たあくる朝、姉さんかぶりで 飯の仕度をしている、こっちへ来いよと言ったら、真っ赤になって。 「昨夜 より今朝被りたき綿帽子」。 「あなた」ってのが、よかったね。 しばらくし て「お前さん」、今は「おい!」。 赤ん坊が、這い出して来たよ。
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