小満んの「穴どろ」後半2014/01/06 06:35

 赤ん坊が、這い出して来たよ。 坊や、ご馳走さんになってました。 坊や も食べるかい。 ウマウマ、タイトト。 どうだ、食べているよ、うまいか、 いい子だね。 タッチできそうだ、おや、おじさんがタッチできないよ、アン ヨは上手、転ぶはお下手、ここまでおいで、甘酒しんじょ。

 中の間は、蔵つづきになっている、蔵前の板の間で、その下には穴倉がある。  火事の時、荷物を放り込んで、砂ブタをかぶせておく。 深川あたりだと、水 が浸み出している。 その板に乗って、落っこった。 水びたしだ、ここは湯 ゥ屋か。 番頭さん、ぬるいよ。

 まだ誰か飲んでいたのか。 坊は、どうしたんだ。 ばあや、寝ぼけまなこ じゃないか。 板が跳ね返っている。 穴倉に誰か落っこっているぞ。 泥棒 だ。 何、いつ俺がお前んとこの物を盗んだ。 酔っ払っているよ、頭(かし ら)を呼んで来い。

 頭は出かけていて、代りに留守番の品川の平さんというのを連れて来た。 頭 の所に居候をしている南品(なんぴん)の平公、力は五人力、両腕に上り龍下 り龍、背中に般若の面の彫り物。 泥棒はどこにいるんですか。 ウチにいる んだよ、穴倉の中に落っこちた。 今日は坊やの誕生日の祝いがあって、縄付 きは出したくない。 下へ降りて、泥棒を抱き上げて、逃がしてくれないか。

 何、引きずり上げる…、ふくらっぱぎを食いちぎるぞ。 旦那、あんなこと を言ってますぜ、ふくらっぱぎは柔らかい、帰って硬い野郎を探してきます。  一円やるから、引き上げてくれ。 一円ですか、一円あればドテラを請け出せ る、鬼に金棒だ、飛び降りて、踏んづける。 何、踏んづける…、股座(また ぐら)をゲンコで突き上げるぞ。 硬い物をあてがって、飛び込むようにでも しないと。 二円あげる。 おねだりのようで、すみません、百人力です、横 っ面を張り飛ばして、かつぎあげましょう。 何、降りてきたら、足と足をひ っつかんで、小間結びにするぞ。 小間結びなんかにされたら、ほどくのが大 変だ。 仕方がない、三円あげよう。 何、三円くれるんなら、俺のほうから 上がって行く。