小満ん「花見酒」の後半 ― 2014/04/02 06:38
水がチャポチャポ、酒はダボダボ。 たまらねえな、俺は風下だからな。 そんなこと、言うなよ。 辰ちゃん、お前、一杯売ってくれ、十銭ある。 灘の 生一本、蛇の目の茶碗に山盛り一杯、十銭、ハイお待ちどうさん。 コクがあ って、油のような酒だ、幸せだ。 うまいね、辰ちゃん、幸せだ。 そんなに、 うまいか、兄貴、一口だけ俺にも飲ませてもらいてえな。 お前も、銭出して、 飲めばいいじゃないか、左の袂(たもと)の中に銭があるだろう。 うめえな、 亀戸天神太鼓橋の、突き当りの四畳半に入って、障子を閉めた音がした。 さ っさと、飲め。 ふらふらすんな。 世の中、明るくなったな、嬉しくなって きた、日露戦争に勝った時のようだ。 お天気様って、様の字をつけたくなる。
二人とも、へべれけ。 言問の向こうに行くのは、よそうか。 さーーっ、 いらっしゃい、いらっしゃい。 酒屋さん、一杯くれ。 いい酒ですよ、銀座 の正宗ホールぐらいに行けば、飲めるような。 なんだ、樽酒、干上がってい るじゃないか。 お客様、何をおっしゃいます。 酒売らないで、喧嘩売り始 めたよ。
完売だ、そっくり売れたんだ。 手締めの前に、売り溜を数えようじゃない か。 片手、一貫玉それっきりか。 三升の酒、そっくり売り切れて、おかし いな。 お前が飲んで十銭が俺のところにきて、俺が飲む。 十銭がお前のと ころに行って、お前が飲む。 行ったり、来たり、売ったり、買ったり、葵の 天婦羅屋の匂いでも、一杯やったっけな。 勘定合っている、そーだ、それで こんなに愉快になったんだ。 そうなら、無駄がねえや。
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