世界初「蜘蛛の糸」繊維、研究のきっかけ ― 2014/06/20 06:09
「蜘蛛の糸」で思い出したのは、山形県鶴岡市の慶應義塾大学生命科学研究 所(IAB・冨田勝所長)で「蜘蛛の糸」を研究していた関山和秀さんたちが、 現代技術で製品化・量産化することを目的にスパイバー株式会社を設立、2013 年5月24日世界初の合成クモ糸繊維「QMONOS」(「蜘蛛の巣」に由来)の量 産化に成功したと発表、11月28日、共同で開発にあたっている小島プレス工 業と共に建設した量産工場が稼動を開始したというニュースである。
この壮大な取り組みについては、関山和秀さん が『三田評論』2010年4月号の「「クモの糸」で変わる世界」に書いていた。 当時の肩書は、「スパイバー 株式会社代表取締役社長、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士 課程3年」である。 研究のきっかけは、2004年夏、関山さんがSFC湘南藤 沢キャンパスの環境情報学部1年生で、所属していた冨田勝研究室の教員や仲 間との飲食の場で「虫」の話題が出たことだった。 人類が「虫」から学べる ことは、山ほどある。 例えば、セミはその小さな体から想像できないほどの 大きな音を出す。 電源も必要なく、あんなに小さな振動板で、あれだけの音 を出せるのだから、そんなスピーカーが開発できたら革命である。 近年、関 西で大量発生しているクマゼミが、産卵の際、木の枝と間違えて光ファイバー ケーブルに産卵管を突き刺して卵を産みつける。 いとも簡単に、ケーブルを 突き刺すことのできる産卵管は凄い。 オオスズメバチは、人間を殺す程の猛 毒を持ち、強靭な顎で敵を喰いちぎる。 そして時速30キロの速さで、一日 に百キロの距離を飛ぶという。 だが、そのオオスズメバチを捕え、食べる「虫」 がいた。 「ジョロウグモ」である。 ということは、「クモ」が最強の虫? に なるか。 そういえばクモの糸が、実はとても強く《夢の繊維》であると、耳 にしたことがあった。 高性能の繊維素材なら、カイコの糸のように産業利用 されていても良さそうなものだが、どうして実用化されていないのか、素朴な 疑問がわいた。
クモは4億年という歳月をかけ、用途に応じた多種多様の糸=「繊維素材」 を生み出した。 それができたのは、クモの糸がタンパク質でできているから だ。 タンパク質は20種類の「アミノ酸」がつながった高分子であり、その アミノ酸の並びを変えることにより生物は無数の分子をつくりだしている。 爪や髪の毛もタンパク質でできている。アミノ酸の並びを、さらに突き詰めて 改変することで、天然のクモ糸の性能を上回る「合成クモ糸」を開発すること ができる可能性がある。
既存の化学繊維のほとんどは、原料を石油に依存し、またその生産/廃棄時 に大量の二酸化炭素を排出するなど、環境負荷が大きい。 合成「クモの糸」 繊維は、原料を石油に頼ることなく生物による生産が可能で、さらに生分解性 であり再資源化も可能である。 さらに、ニーズに合わせ特性をカスタマイズ できる特徴がある。 アミノ酸配列の改変による分子デザインが可能になれば、 顧客の必要とする特性(強度、伸度、弾性率、耐熱性など)に合わせて、新し い分子を設計し、どの分子でもほとんど同じプロセスで生産することが可能で ある。 合成クモ糸の設計技術が確立すれば、まず製品設計を行い、その後、 必要な物性を持つ材料をその都度設計・調達して製品を製造することが可能に なる。 そうなれば製品設計・開発の幅が圧倒的に広がり、ものづくりの概念 が一変するであろう。
関山和秀さんは、このように、脱石油/超高性能/オンデマンドな物性デザ インと製品供給が可能な合成クモ糸の実用化が実現すれば、全世界の「ものづ くり産業」に破壊的なイノベーションが起ることは自明であり、それは第三次 産業の幕開けとなるだろう、と考えたのである。
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