SFC湘南藤沢キャンパスの文化風土2014/06/22 06:53

関山和秀さんは、修士課程の時、学期末の成果発表会で研究発表をして、厳 しい批判を受け、こてんぱんに打ちのめされたことがあった。 自分の未熟さ と、あまりの力不足が情けなくなり、しばらく俯いて席に座っていた。 する と、冨田勝教授がどこからともなく現れ、「おい関山、皆になんと言われようとさ、 おれはお前の研究おもしろいと思っているから頑張れよ」と声をかけてくれた。  結局、今の仕事を頑張り続けていられるのは、そうした一言一言の積み重ねが あったからだ。 そしてその一言一言が胸を打ち、自分を奮い立たせる原動力 になったのは、その言葉をかけて下さった方々が皆、真剣に生きていたからだ と思う、という。

そして、こう書く。 「真剣に生きる」とは、物事を極限まで考えに考え抜 き、決断し、行動する、ということを、ひたすら繰り返すことである。 科学 技術研究に携わる人間であれば、自身が「何のために研究するのか」という問 いに真剣に対峙することからはじまる。 権威や常識には囚われず、誰かがや らなければならない人類社会としての大きな課題を発見し、研究テーマを定め るのである。 そしてその道がどれだけ困難を極めるものであっても、率先し てこれに挑戦し壁を乗り越えていくという気概を持ち、最後まで諦めずに猛烈 に努力し続ける。 正に慶應義塾の掲げる「独立自尊」「自我作古」「躬行実践」 の精神が必要になるのである、と。

さらに、資源に乏しく、少子高齢化により労働力の低下も勢いを増し、世界 最強の軍事力があるわけでもない現代の日本。 日本が世界中から必要とされ、 世界に影響を与え続ける国であるためには、他国に真似できないような高付加 価値の〈知〉を生み出し続けるしかない。 より大きなブレイクスルー、より 大きなイノベーションを世界に提供することが、日本の科学技術研究に求めら れているのである、とも。

私は、この関山和秀さんを生み出した慶應SFC湘南藤沢キャンパスの面白さ を想った。 手元にあった『慶應SFCの起業家たち』(慶應義塾大学出版会・ 2013年)をパラパラとめくってみた。 《飯盛義徳総合政策学部准教授》 SFCは、1990年の開設以来、「未来を創 るキャンパス」を標榜し、従来の学問領域に拘泥することなく、「問題発見・解 決」を中核に据え、「知の再編」を先導してきた知の実験キャンパスである。 こ の問題発見・解決という理念がベースになって、研究、教育、入試、支援制度 などが展開されている。 それが、おもしろいことに挑戦し、かつ多様性を受 け入れるSFCの文化、素地の醸成につながり、各要素や制度がさらに機能、定 着していくという相乗効果をもたらしている。

《村井純環境情報学部長》 昔話だけど、僕が「インターネットを広げたい」 って言うと「じゃあ、総理大臣に話したら」なんて答えが返ってきた時代に、 このキャンパスのなかで、分野の違う人たちが「おもしろいね」「やってみたら」 と背中を押してくれた。 だから、実現できた。 まず、この場にはダイバーシティ(多様性)があって、そこで誰かが何かを やりたいって言った時、助けてくれる仲間がいる。 これがSFCの基本的な文 化モデルとして、受け継がれているんだな。 新しい領域に挑戦して、それを 実現しようと思ったら、こういう環境が必要だと思う。

《国領二郎総合政策学部長》 そこでの重要なルールはね。 多数決じゃな いってこと。 そもそもインターネットなんて怪しげなもの、多数決じゃ実現 できなかった。

《村井純学部長》 「世の中の問題を解決してやろう」っていうのは、いわ ば「生き方」だと思うんだけど、そんな生き方をしている先輩たちがたくさん いて、卒業してもキャンパスに話をしに来てくれる。