市馬の「花見の仇討」前半 ― 2016/05/08 07:15
春、心はうきうき、春は花。 <銭湯で上野の花の噂かな>。 飛鳥山へ行 ったけれど、ごったがえしていたよ。 花はどうだった? 花? 咲いてたかな。 見る人によって、風情が違う。 武張った人は、詩吟。 機嫌がいいと謡うな、 近藤。 一句、浮んだ。 <この山は風邪を引いたか花だらけ>。 吉っつあ ん、咲いたな。 擂粉木野郎、ご出家は、全山満開だが、夜半に嵐の吹かぬも のかは、と。
用事ってのは、何だ。 花が見頃だ、趣向を考えよう。 アッと言って、開 いた口がふさがらなくなるような、銭のかからない。 あるよ、四人銘々に踏 み台を持って行く。 花の四隅で踏み台に上がり、帯をほどいて、緋縮緬の肌 襦袢の揃いを見せる。 帯を枝にかけて、首を吊って、踏み台を蹴っ飛ばす。 見ている人は、驚くな。 俺達はどうなる、出来ねえ相談は、駄目だ。
面白え算段がある、茶番だ。 敵討だ。 巡礼兄弟、浪人、それに六十六部。 筋書きは、こうだ。 深編笠の浪人がぷかりぷかり煙草をやっている、火を借 りた巡礼が、探し求めていた仇と気づく。 盲亀の浮木優曇華の、花待ち得た る今日只今、いざ尋常に勝負、勝負! 何を、返り討だ! 巡礼は仕込み杖、 本身を使う、竹光はペタペタして駄目だ。 斬り合いに驚いて、いったん散っ た見物が、また囲んだところで、六十六部が仲裁に入る。 笈摺(おいずる) から、酒や肴、三味線を小さく畳んだのを出し、双方目出度い、目出度いと、 カッポレの総踊りになる。 何だ、花見の趣向か、ワァーーーッて、受けよう ってんだ。 やろう、やろう。
俺(熊)が仇をやる、金さんと辰さんが巡礼兄弟、留さんが六部、三味線が 弾ける、粋な男はお前さんだけだ。 やろうかな。 稽古しよう。 向うへ行 けば、何とかなるよ。 稽古やらなきゃあ駄目だ。 おい、熊さん、火を貸し てくれ。 だから、稽古がいるんだ。 卒爾ながら、火を一つ、おん貸し下さ れ。 相撲の行司みたいだな。 卒爾ながら、屁を一つ…。 そんなもん、借 りに来るな。 火玉がコロコロって転がり、その火を見ようとして、深編笠の 中を見る。 プーーッ! 唾(つばき)を飛ばすな。 汝は、建具屋の熊公よ な。 何か、それらしい名前を言え。 汝は、石野地蔵…、山坂転太(ころん だ)…、北風寒右衛門…、松脂ベタ蔵…、黒煙五平太よな。 親の仇を探し求 めて、十三年。 七年で、いいよ。 大段平(ダンビラ)は、物差しとハタキ で稽古だ。 暫く、暫く。 笈摺から酒出して、酒盛り、楽しみだねえ。
上野の山は、どうだい。 お役人がいたら、やかましいよ。 清水堂の所に 立派な桜があるだろう、正午(しょううま)の刻に。 古着屋で衣裳を誂えて。 明くる日、絶好の花見日和となった。
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