雲助の「菊江の佛壇」前半2016/05/05 06:57

 今日は演り手のなくなった噺で、なにしろ研究会ですから、こういうのがあ ってもよかろうというんで。 親にとって、子供の苦労が絶えない。 堅過ぎ るのも、柔かいのも。 廓、芸者茶屋は、お金を持って行きさえすれば、面白 いように遊ばせてくれる。 最初は仲間に無理やり連れて行かれる。 若旦那 は容子がよくて、アーーン。 五日、十日、と帰って来ない。 それではと、 嫁を迎えたけれど、三月で外へ出かける。

 番頭さん、倅には困ったもんだ。 若旦那には困ったもんです。 女房のお 花が、実家(さと)で患っているというのに、見舞いにも行かない。 御新造 様がお里で患っているのに、お見舞いにも行かない。 番頭は、わしと同じこ とばかり言う。

 若旦那が、昼日中から酔っぱらって帰って来る。 旦那様が、馬鹿なお怒り ですよ。 お怒りーーっ、お怒りーーっ、お父っつあん、大層ご無沙汰致しま して…。 お前は、お花の見舞いになぜ行かぬ。 病気見舞いは嫌いで。 女 房じゃないか、夜泊り、日泊りで遊んでいて。 一人娘なのを、頼み込んで、 嫁にもらったんじゃないか。 具合が悪くなって、実家の方が気兼ねがないか と帰したが、どっと枕に付いたというじゃないか。 お前は、いったい誰に似 たんだ。 親に似ぬ子は鬼っ子というが、私など吉原に足を向けたことがない。  信心といっちゃあ、門跡様への信心、雨風嵐でも出かける。 大きな仏壇をこ しらえた、人が入れるほどの。 でも、やれ仏壇、それ仏壇、と言っていたの が、三月も持たないで、外へ出かけるように。 まあ、まあ、(と番頭が止めに 入って)。 二階へ上がって、寝てしまえ。

 御新造様のお里から、お使いの方が…。 按配が悪いようだ、私が見舞いに 行くので、今日ばかりは、倅を外に出さないように。 向こうに泊まることに なるだろう。 万事、番頭さんにお任せする。 旦那が出かけると若旦那、番 頭さんを男と見込んで頼みがある。 十両、貸して。 店の金を、筆の先でチ ョロ、チョロ、チョロと、いつものように。 私は白ねずみと言われています、 石橋を叩いて渡る、石橋の上で転んだら痛いけれど。 野暮な。 駄目ですよ、 堅くて、野暮は承知の上です。

 十日ばかり前の話だ、朝湯に隣町の湯屋へ行って出てくると、女湯から出て きた女が、少し薹(とう)は立っていたが、いい女でね、あとを付いて行った。  姿が見えなくなった横丁の、奥が突き当たりで井戸があってね、奥から二軒目 の左に、清元某とあって、塗の下駄と、世にも間抜けなマナイタのような下駄 が並んでいて、その下駄にウチの焼き印があった、気になるね。 番頭、いい から仕事をして。 井戸端にくちびるの薄い、よくしゃべりそうな女がいたん で聞くと、さる大店の番頭さんの想い者だというじゃないか。 どこの番頭さ んでしょうね。 世間話だと、明舟町の大店の番頭、佐平さんの想い者だと。  お前と同じ名前なんだよ、名前を騙るとは、勘弁ならない、親父が帰って来た ら話をして、出る所へ出たら…。 声が大きい、野暮な。 野暮は承知の上だ。  あの女は、妹の亭主の従兄弟の遠縁に当る者で。 はい十両、柳橋へ行って来 る、菊江に逢って来る。 あなた、悪いね、菊江さんの顔が見られればいいん でしょう、ここに呼びます。 言うことが、派手だね。 ここは、私が仕切ら せて頂きます。 清蔵、柳橋へ行って、菊江さんを駕籠に放り込んで、連れて 来てくれ。