柳亭市馬の「五月幟」後半2024/04/30 06:50

兄ィ、どうぞ、どうぞ、床の間の前に。 お膳と、酒をどうぞ。 酒は駄目なんだ、今日は、用があるんで。 兄ィが、酒をやらないなんて、お天道様が西から上がるよ。 湯呑で一杯なら、いいでしょう。 わかった、半分でいい。 どういうわけで、喧嘩になったんだ。 辰公と金太が、松の湯に行っていた。 金太が黙って、辰公の石鹸を使ったところから始まった。 黙って他人の石鹸を使う奴は、「盗っ人」だって辰公。 金太もまずい、どうせ小さい石鹸を集めて、ダンゴにしたんだろう、どうも泡が立たないと思った、と。 辰公は、舶来の石鹸だ、だから泡がよく立つんだ。 泡が立つんなら、蟹は舶来か。 流しで、大喧嘩になった。 祭が近いのに、後を引いちゃあいけないんで、寿司屋の二階で手打ちをすることにしたんだ。 兄ィ、どうか一つ、よろしくお願いします、兄ィが仲人をしてくれりゃあ、もう安心だ。

酒は、もう駄目だ。 (反対側からも、注ぐ)こっちから、注いだのは誰だ。(と、飲む) 鰹がいいな、時季のものだ、女房を質に置いてもというけれど…。 うめえな、酒が進むよ。 鰹は生姜で、アーーーッ! もう一杯、もらおうか。(と、だんだん酔ってくる) 俺たちの面倒事を取り持ってくれる、これからも、よろしくお願いしますよ、兄ィ。 いいよ、いいよ、世話をやききれねえな。 みんな、飲んでいるか、芸者を呼ぶか、そうだ、裏から稽古屋のお師匠さんを呼んで来い、祝儀は俺が出す。

どんちゃん騒ぎになった。 割り前にもならないだろうがと、懐から五円出す。 あらかた一人で払ってもらうようで、すみませんね。 散財させちゃって、ご馳走様でした。 いいって、ことよ。 先に帰るから。 ご足労かけました。 その内に、挨拶に伺いますが、姐御によろしく。

姐御! 今日は無理だ、人形……、いけねえ、あれは人形代だった。 手ぶらで、帰りにくい。

お松さん、熊はどうした。 二階で寝てます、とんでもないことをして、人形を飲んじゃって。 やい、熊! 誰だ、熊って、伯父さんかい。 人形が飾ってあるのを、見てくれ。 どこに飾ってある。 伯父さん、見えねえのか、耄碌したね。 二階へ、おのぼり、おのぼりが、二本。 赤い顔の金太郎、俺は熊だ。 そんなことが、正気で言えるのか。 怒っている伯父さんが、鍾馗様だ。 太腿をつねってくれ、ご馳走は蒲団の柏餅だ。 可愛い子だと、伯父さんも祝ってやろう、その大きな声を、吹き流しにしておけ。

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