柳家さん喬の「そば清」後半2024/05/26 07:37

 清兵衛さん、物見遊山の旅で信州へ出かけた。 山道を歩いていると、ふた抱えもあるウワバミに出くわした。 南無三と岩陰に身を隠すと、狩人が鉄砲をかまえている。 それをウワバミが、ガバーーッと、呑み込んだ。 人、一人呑み込んだウワバミは、腹がふくれて、苦しそうにバターーン、バターーンとやっていたが、近くの青い草を、長い舌でペロペロッとなめた。 すると、ふくらんでいた腹が、たちまちひっこんで、ウワバミは山へ帰って行った。

 清兵衛さんは、間違えた。 その青い草は、何でも溶ける草ではなかった。 もう一歩、踏み込んで、お話をします。 梅雨の時期、アルマイトの弁当箱に日の丸弁当を入れると、弁当箱の蓋が梅干で黒ずむ。 梅干が金属を侵すんで、梅干がご飯を溶かしたのは、見たことがない。

 噺の後半に入ります。 「どーも」、清兵衛さんが五十枚、一両でやるってんで、ご隠居なんぞ砂かぶりじゃなく、汁かぶりに陣取って見ている。 清兵衛さん、早いの、早くないの、蕎麦がつながっているんじゃないかという早さで、四十枚。 残りは十枚。 四十六、四十七…、もう負けだ、負けだ。 そうじゃないよ、様子が違う、青い顔になって、箸が止まった。 やめよう、やめたほうがいいよ。 やります。 大丈夫かい。 清兵衛さん、下を向けないので、体をドスン、ドスンと、ゆする。 そんなことしても、茶筒じゃないんだから駄目だろう。 (上を向いて、頭の上から、そばを口に入れ、顎を手で動かす) あとは? 二枚。 縁側で、少し休ませてください。 長いことは駄目だよ。 動けないから、みんなで腰を押してやれ。 閉めて、閉めて。 この草さえ、ありゃあ、チュ、チュ、チュー。

 清兵衛さん、どうした、どうしたい。 よいしょ(と、開ける)。 そばが着物を着て、座っていやがる。