三遊亭笑遊の「片棒」 ― 2024/06/29 06:58
笑遊は、温かい拍手を頂くと嬉しいね、と始めた。 こちらも、プレゼントをしたい。 チュ、と投げキッス。 いいね、この静けさが。 膝と足が悪くなり、歩くのが大変、カーペットでもつまずいて転ぶ。 医者に言わせると、筋肉が落ちている、散歩しなさい、と。 散歩しながら稽古をしようかなと思う。 目の前に、妙齢のご婦人がいる。 いいね、きれいだね。 何か、ご用でしょうか? お茶しない? いまなお煩悩の世界にいる、今日この頃で。 一緒に、落語を楽しみましょう。
ケチな人のお噺で。 落語を聴くのに、金を払うなんて、とんでもない。 息も吐きたくない。 苦しい。 食事もしたくない、出したくない。 出さないと後が入らないので、くやしいけれど、出す。
赤螺屋吝嗇兵衛(けちべえ)さん。 番頭さん、爪に火をともすようにしてつくってきたこの身代、三人の倅の誰に譲ろうか。 お金の使い方をお試しになったらいかがでしょう、当家の一大事に。 そうか、私が死んだら、どんな弔いを出すか、一人ずつ、聞いてみよう。
金太郎、私も74だ、いつ死ぬかわからない。 お父っつあんがお亡くなりになる、(笑いながら)いつ? 馬鹿、もしもという話だ、どんな弔いを出す。 盛大なお弔いを出します、通夜は二晩、明けて本葬は大きな寺、浅草寺か、増上寺。 料理は一流の料理屋で、お土産をお持ち帰り頂く、格式本塗りの漆の三段の重箱に入れ、丹後縮緬の風呂敷に包む。 お車代を用意して、二円を封筒に入れれば、皆様大喜びでお帰りになる。 私も行きたいよ。 香典返しは、お茶や海苔なんかじゃなくて、金貨銀貨の詰め合わせを。 いったい、幾らかかるんだ? 予算は一人百円、三千五百人分、多少の借財もしかたがない。 あっちへ行け。 半端じゃない、突き抜けた馬鹿だ。 絶対、先に死なないからな。 タネは良いけれど、ハタケがな。
銀次郎じゃないか。 お父っつあん、余り大きな声を出さないほうがいい、ぶっ倒れたばかりじゃないですか。 私は、こういう半端な人間だから、破天荒な弔いを、弔いの歴史に残る派手な弔いを出します。 紅白の幕を、ガーーッ、ガーーッと張って、陽気に行きます。 頭連中の木遣り、弥蔵を組んで、扇子を半開きにして、ヘーーーッ、ヘッ、ヨーーー、エーーー。 つづいて手古舞、新橋、葭町、柳橋の姐さん方、左手に提灯、右手に金棒、シャンコン、シャンコンと練り歩く。 この後が山車で、上にはお父ッつァんそっくりの人形、紺の前掛けで、手にソロバン、いかにも因業な顔をしてる、神田囃子が七人ばかり、テケテンテン、スケテンテン、ピーヒャラ、ピーヒャラ、スケデンデン、テンツク、ヒャリトロ、ヒャーリトロ、昇殿から鎌倉へ、哀愁を帯びてていい。 人形が仕掛けで動き出す。 ドンドン、テッ! どうした? 首が電線に引っかかったんだ。 神輿を出そう、お父っつあんのお骨が入っているので、隣町の連中に取られないようにする。 囃子の調子が変わる。 ワッショイ、ワッショイ、ワッセー、ワッセー、テンツク、テレツク、テンテン。 うるせえ。 花火屋が花火を上げて、ガチャーーッン、ドッカン! お父っつあんの位牌が、落下傘で降ってくる。 柝がチョン、チョンと入って、弔辞の朗読。 「石町三丁目赤螺屋吝嗇兵衛君、長年の吝嗇の結果、栄養不良の為、逝去されました、アー、人生とは愉快なり」。 一同万歳のご唱和を、「バンザーイ! バンザーイ!」 銀次郎、お前は突き抜けた馬鹿だな。 タネは良いけれど、ハタケがな。
鉄三郎か、お入り。 お前は弔いを、どうしてくれる。 ごくごく簡単に済ませたい。 誰やらの辞世に、「我死なば、焼くな、埋めるな、野に捨てよ、飢えたる犬の腹肥やせ」というのがあります。 粗大ゴミかい。 粗大ゴミじゃなくて、生ゴミ。 弔い、仕方がないから出す。 亡くなったお父っつあんを、菜漬けの樽に入れる。 親孝行とか言いたいのか。 臭い物には蓋で。 樽を差し担いにする。 片棒は私が担ぎますが、担ぎ手を頼めば、賃金を払わなきゃあならない。 そうか、その片棒は、お父っつあんが引き受けよう。
三遊亭笑遊73歳、「笑遊ハイテンション落語」だそうだが、銀次郎のケースの派手な仕種が弾けて、とても面白かった。
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