佐野洋子さん、人生の名言 ― 2011/05/12 06:54
『役にたたない日々』(朝日文庫)には、数々のすばらしい名言がある。
○佐野さんは、貸しビデオ屋の前の信号で、沢山借りて大晦日をすごそうと 思う。 若い者たちが、店を出たり入ったりしている。 孤独なのか、家族や 恋人はいないのか。 そう思っているうちに、自分を他人の目で見てしまった。
「いいバアさんが五本も六本も大晦日にビデオを借りたら、かわいそうなオ バアさん、何か荒涼とした風景を他人は見るかも知れぬ。人にはあれこれ思わ れたくないわさ。/私は見栄のために、ビデオ屋に行くのを止めた。」 「私の見栄ってこういう表れ方をするのか。フーン。しかし見栄というもの は世間がないと生れないものである。あれ程私の一生、自分は世間になるまい と腹を固くふんばって来たのに、自分の中に世間が埋蔵されていたのだ。困っ たことだ。私の肝は世間に負けた。路地を私はうつむいて歩いていた。」(56~ 57頁)
○ガンになったら、周りの人達がみんな優しくなった。 子孫(息子)の親 友の三十六になる男がビデオの「冬ソナ」全巻を持って来てくれた。 以来、 韓流ドラマに身をもちくずした。
「私は本当に日本の小母さんに感謝したい。宣伝に踊らされたわけでもなく、 えらい評論家にそそのかされたのでもなく、小母さんたちは自ら発見し、地中 のマグマのように津波のようにどーっと韓流ドラマを押し上げたのである。そ して恥も外聞もなくのめり込み、日本を変えた。外交官もえらい学者も芸術家 も出来なかったことをやってのけてしまったのである。私など、そのしり馬に おくれて乗り、身をもちくずしているのである。」(134頁)
○佐野さんは、朝鮮の人の名前を5人あげられるかといわれると、安重根と 李承晩しか知らない。 イギリス人でもフランス人でも、限りないとはいわな いが、もう少しスラスラ云える。 アメリカの南北戦争の事など結構くわしい。
「本当に日本は西洋ばかりつま先立って学んでいるのだ。私は外国へ行くと 時々漱石になった気分になる。えーっ百年たっても日本は漱石なんか。漱石な んか知らない若いもんはどういう気分なのか。」(131~132頁)
○岡本かの子は晩年「……いよよ華やぐ命なりけり」とうたった。 佐野さ んは、気がついたら、六十過ぎていて、全然華やぐ命なんか忘れていた。
「生活は地味なつまらない雑事の連続である。しかしその雑事なしでは人は 生きていけない。」(223頁)
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