扇遊の「彌次郎」前半 ― 2016/01/06 06:22
扇遊は、国立は大人のお客様で有難い、と始めた。 昔から、嘘つきは泥棒 の始まり、と言うけれど、噺家はほとんど泥棒。 学校では正直な人間になれ と教えるけれど、社会に出ると、そうはいかない。 一番いい例が披露宴、仲 人のご挨拶は、嘘のかたまり。 本当を言ったら、破談になる。 その後で、 中条きよしの「うそ」を歌った人がいたが、尊敬する。
「旅は憂(う)いもの、辛(つら)いもの」というけれど、よかったよ、北 海道。 寒い所だそうで? 何でも凍るんだ。 お酒は、おかじり下さい、と 言う。 凍ってるんだ。 酔っ払いに、虫歯の人はいない。 「おはよう」が 凍って、「おはよう玉」になる。 年寄りが拾ってきて、目覚ましに使う。 解 けると、「おはよう」「おはよう」。 雨が凍る。 氷の棒になって降って来る、 雨ん棒という。 危ないから、金張りの傘を差す、金張り、銀張り、貧乏人は ブリキの傘だ。 ションベンが凍る。 している最中に凍るから、木槌を持っ ていく。 カチン、シャー、カチン、シャー。 急所を打って、目を回した。 火事が凍る。 ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ。 「ン」が凍るんだ。 水を かけると、カチャ、カチャ、カチャ、カチャ、と凍った。 ご苦労様、ご苦労 様。 夜が明けて、見に行った。 粉雪がかかって、大きなサンゴを見るよう だ。 木挽きでギーコギーコ切って、牛の背中に乗せ、海へ捨てに行く。 牛 の背中で、火事が解け出した、ボーボー燃え出す。 水をかけても、焼け牛に 水。 牛が、モー勘弁してくれ。
奥州に武者修行に行った。 鉄扇を持って、他流試合をする。 南部のオオ ソレ山の麓の茶店で、この山は越せません、と止められた。 山賊や獣がいる。 退治してくれようと、チャッチャッチャッと登る、道幅は三尺ほどで、脇は千 尋の谷だ。 苔でツルツルと滑るのを、踏みしめて行くと、向こうにチラチラ 明かりが見える。 頂上が平ら地になっていて、15、6人が焚火を囲んでいる。 タバコを喫っている親分のような奴は、四万六千日のヒゲ、馬の皮のチャンチ ャンコを着て、白井権八みたい、坊主頭のちょんまげ。 卒爾ながら、火をお 貸しくだされ。 六尺豊かな黒い奴が、「お若えの、お待ちなさい」。 一人二 人の履物よな、しめて三足(山賊)。 チャン、チャン、チャン、とチャンバラ になる。 相手の利き手を、鉄扇で打つ。 坊主頭、素っ裸の野郎の、胸毛と タブサをつかんで、投げ飛ばす。 あたりの岩をちぎっては投げ、ちぎっては 投げ。
扇遊の「彌次郎」後半 ― 2016/01/07 06:33
山を降りかけると、ボウーーッ、六尺はあろうかという大猪だ。 角立てて、 襲ってきた。 猪に角? 牙が角みたいに、見えたんだ。 松の木によじ登っ て、まつ安心。 が、松じゃなくて、竹だった。 てっぺんに登ると、しなっ てきた、念仏を唱える。 猪がぶつかって来た。 バン、バンと、竹がはじけ る。 猪は、鉄砲で撃たれたと思って、倒れた。 シシ乗りになると、猪が駆 け出したが、後ろ前に乗っていた。 マタグラに手をやって、シシの金を、金 しぼり。 バタン、キュウと、くたばった。 猪の腹を裂くと、赤ん坊が十六 匹、四四、十六。 生まれたてのくせに、父ちゃんの仇と、かかって来た。 金 しぼりにしたんだから、オスだろう? そこが畜生の浅ましさ。 すたこら逃 げ出した。
麓で、鬨の声が上がる。 百姓体(てい)の男たちがやって来て、三間ぐら い手前で、バタバタと手を付く。 祝い酒を一献差し上げたい。 庄屋様の家 へ。 総檜造りの立派な家だ、右に二十五人、左に二十五人、五十人が扉を開 けて出迎える。 山海の珍味、「オオソレ山」はいい地酒だ。 庭には、紅梅、 白梅、あやめ、菖蒲、かきつばたの花が開き、見事なモミジ、全山紅葉、満月 がそれを照らし、雪が降って、蛍狩り。 田舎のぞろっぺが、そぞろ歩く。 ヘ ロリンシャン、ヘロリンシャン。 障子にツバつけて、覗くと、お清さん、お 嬢さんだ。 恩人の、あなた様にお話が…、あなた様の女房にして頂きたい。 修行中の身、断わった。 お嬢さん、懐剣出して、喉に当て、死ぬ覚悟だと。 今晩、私の部屋に来てほしい。 三十六計、逃げるが勝ち。
目の前に、大きな川。 紀州の日高川。 五里霧中、船頭は、舟を出せない と。 大きな寺がある、貧窮山、困窮寺。 釣鐘の代りに、うっちゃった大き な水甕があったので、それを頭からかぶった。
お嬢さん、後を追いかけて、ズンズンバタバタ、ズンバタバタ。 船頭に、 焦がれ死にしてしまうと言うと、飛び込んで、一尺ほどの蛇になった。 寺の 台所にあった大きな水甕を、七回り半巻いた。 一尺でそんなに巻けるのか? 女の一心で、伸びた。 だが、その蛇が溶けた。 不精な寺で、水甕のまわり にナメクジが一杯いたんだ。 頃合いはいいかと、水甕を持ち上げて、立った ところは、いい男で安珍。 安珍という山伏だ。 道理でホラを吹き通した。
小満んの「羽団扇」前半 ― 2016/01/08 06:40
あばら家にとんで火に入る霰(あられ)哉 一茶。 「初昔」なんて季語が ある。 元日に、大晦日をもう一年前の昔になったんだなあと思い出したりす る、「去年今年」と同じだ。 往来に一斗の酒を尽くしけり(?)。 一斗樽年 賀の宴に飲み尽くし。 生酔ひの礼者を見れば大道を横すじかいに春は来にけ り 蜀山人(四方赤良)。
「宝船」、初夢を見るために枕の下に敷いた縁起物を売りに来た。 駿河半紙 に木版で(?)、七福神の宝船を描き、一富士二鷹三茄子や、「ながきよのとお のねぶりのみなめざめなみのりぶねのおとのよきかな」の回文歌が書き添えて あったりする。 借金が富士の山、為すも成せない、空見たことか。
お前さん、ずいぶん酔っているじゃないか。 年始の酒だ。 飲みてえ、外 は外、内は内だ、<元日やおのが女房にちょいと惚れ>ってな。 枕の下に宝 船敷いて、早く寝てちょうだい。 いい夢見たら話して、こぼれ幸いっていう から。 寝間着着て、ちゃんとおしっこして。 子供じゃないよ。
もう、寝ちゃつたよ、笑ってるよ、鼻から提灯出したり引っ込めたり、お祭 が夕立にあった夢でも見てるのかしら。 助平ったらしい顔、女の夢を見てる んだ。 お前さん、どんな女だった? そんな夢、見てねえよ。 連れ添う女 房に夢の話もできないのかい、何年一緒になってんだよ。 いい加減にしやが れ。
おい、ちょっと、ここを開けろ。 どなた様で。 鞍馬山の天狗だ。 町内 の行者さんに、ご祈祷かなんか頼んだのか。 江戸の正月を見たいと思って来 た、夫婦喧嘩の仲裁をしてやろう。 天狗様にお茶を差し上げろ。 喧嘩のも とは何だ。 二日の日に初夢を見て、女と何をしたって、話をしない。 おか みさん、それは無理というもんだな。 それを強情張って。 おかみさんに証 拠をつかまれているのか。 不公平な仲人(ちゅうにん)なら、帰れっていう のか、帰るが、連れて行くぞ。
小満んの「羽団扇」後半 ― 2016/01/09 09:00
放り出しやがって、杉林だ、ここはどこ? 京の鞍馬山だ。 夢の話を聞き たい、羽団扇を使って、ここまで飛んで来た。 天狗様の絵は見たことがある。 嘴(くちばし)のあるのはカラス天狗といって下っ端、前座のようなもんだ。 小天狗、大天狗、俺なんざ名人だ。 大変な自信で。 それが天狗だ。 先祖 は慢心して、仏になれず、天狗になった。 夢は見てない、江戸へ帰りたい。 羽団扇一振りで木っ端微塵になる、股を持って引っ裂くぞ。 いよいよ、お前 を始末するが、それでもしゃべらないか。
本当はしゃべりたくないんだが、天狗様のことだ。 でも、手ぶらじゃあ、 しゃべりにくい、その羽団扇を持たせて下さい。 駄目だ、これは魂だ、武士 の刀のような物だ。 じゃあ、しゃべらない。 天秤にかけたな、仕方がない。 一席、お笑いを…、いい夢を見ました、両国の川開きで、黒山の人だかり、浮 んだ舟がいっぱい、芸人舟はにぎやかだ、♪チャラチャラチャンチャン、スチ ャラカチャン。 動かすな、手を動かすんじゃない。 返してくれ羽団扇、お い泥棒。 羽団扇のない天狗は、羽抜鶏みたいなもんだ。 空を飛んでるぞ、 江戸はどこか、大海原だ。
舳(みよし)の方に何か落ちたぞ。 ドローンか。 人間が落ちて来た。 気 を失っておるんだろう。 ♪チャラチャラチャンチャン、スチャラカチャン。 しっかりせんか。 ここはどこですか。 蓬莱山ではないが、宝船の上だ。 金 波、銀波、青海波(せいがいは)。 私は、恵比寿三郎。 皆さん、福々しい顔 でお揃いで、いい所に落ちた。 お酒盛り中なんで、どうぞ。 弁天様じゃな いですか、お奇麗で。 皆様、お目出とうございます。 お酒をどうぞ。 ご 返杯。 恵比寿様へ。 恵比寿は、ビール。 大黒様へ。 色が黒いね、日本 の方じゃない、大黒(外国)の方で。 天竺のお生れで、鬼に金棒。 布袋様、 福々しいね。 何でも持ってっちゃうから、フテエ(布袋)野郎。 福禄寿様、 おつむりが長い、お辞儀のたびに、あとずさり。 おいくつで? フクロクジ ュウ。 煙草喫みたいんですが。 船の上は、禁煙。 眠くなった、横になり たい。 潮風は体に毒。
ちょいと、お前さん! あっ弁天様、おっかあ、お前じゃないか。 見た夢 は、羽団扇落として、宝船の上だった。 あたしが弁天様かい。 それは日本 一の初夢だよ。 煙草、吸わしてくれ。 毘沙門様もいたけれど、七福神に一 人足りないな。 あとの一服(福)は、今の吸い付け煙草で喫んでしまった。
「みちのく初桜」(啓翁桜) ― 2016/01/10 06:50
本日は、福沢諭吉の誕生日。 午前10時30分から三田の西校舎ホールで第 181回の福澤先生誕生記念会があり、清家篤塾長の年頭挨拶の後、池田幸弘経 済学部教授の「福沢諭吉とギャレット・ドロッパーズ : 大学部開設125年に 寄せて」という記念講演がある予定になっている。
暮に、「みちのく初桜」というのを送って頂いた。 「啓翁桜」ともいうらし い。 「KEIOざくら」という音も、いいではないか。 届いた時は、つぼみ だったのが、次第にピンクを萌してきて、元日にはぴたりと合わせたように開 いてくれた。
ひと足早く花を咲かせる、この「みちのく初桜」は、夏から秋にかけて昼夜 の温度差が大きい東北の環境と栽培技術でつくられたものだそうだ。 花芽が 充実し、均整のとれた美しい啓翁桜に育つ。 つぼみが開花すると、ほのかな 香りも漂う。 花が終わると、風情のある葉桜まで、長く楽しむことができる という。
写真は、わが家の玄関で咲いた「みちのく初桜」、6日に撮ったもの。 6日 ともなると、満開を少し過ぎたといったところか。
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